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歌が上手い人を真似するメリット・デメリット|ボイトレで上達につなげる方法

執筆者の写真: 内田のボイトレ
内田のボイトレ
10月8日
読了時間: 12分

はじめに

声や歌については、文章で説明すると、

どうしても分かりにくくなってしまうことがあります。

僕自身も、ボイトレや声について新しい知識を学んだとき、「なるほど」と頭では分かっても、実際に声を出してみるとすぐにはできないことがたくさんありました。

だからこそ、この記事では難しい内容もできるだけ分かりやすくまとめています。

すべてを一度で理解する必要はありません。

「そういう考え方もあるんだな」「これ、自分にも当てはまるかも」

そんなふうに、皆さんのボイトレや歌の練習の何か一つのヒントになれば嬉しいです。

そして、文章を読んでも「自分の場合はどうなんだろう?」と思ったら、ぜひ体験レッスンで直接質問してください。

実際に声を出しながら、一緒に確認していきましょう。

結論|歌が上手い人を真似する事は、練習方法の一つ

「歌が上手い人の歌い方を真似すると上手くなる」

これは、ある意味では理にかなっています。

歌唱は、音程やリズムだけではなく、

  • 声の高さ

  • 音量

  • 声質

  • 母音

  • 子音

  • 音の入り方

  • 音の切り方

  • フレーズ

  • リズム

  • 息の使い方

  • 声の変化

など、多くの要素を同時に扱う複雑な技能だからです。

実際、歌唱教育の研究では、教師が歌唱モデルを示す「モデリング」やフィードバックなどが指導行動として使われています。

また、歌手を対象とした研究では、歌唱経験が多い人ほど、他者の声を模倣する課題でより正確な声の調整を行えることも報告されています。

ただし、

「上手い人と同じ声を作ればいい」

という意味ではありません。

真似する目的は、

その人の声をコピーする事ではなく、自分の声の使い方を学ぶための材料にする事

だと考えると分かりやすいと思います。

なぜ人は歌を真似できるのか?

歌を真似するとき、耳で相手の声を聞いています。

そして、

「このくらいの高さだ」

「このくらいの強さだ」

「このような声質だ」

と感じながら、自分の声を調整します。

つまり、

聞く → 判断する → 声を出す → 自分の声を聞く → 修正する

という流れが起こっています。

これは、前回の記事で説明した「運動学習」とも関係します。

歌では、聴覚から得た情報と、声を動かす運動系が密接に関係しています。

歌唱中の聴覚フィードバックを扱った研究でも、歌手は自分のF0(基本周波数)のずれに対して、より細かな調整を行えることが報告されています。

メリット①|「どんな声を目指すのか」が分かりやすい

「もっと響かせて」

「もっと柔らかく」

「もう少し強く」

と言われても、初心者には分かりにくいことがあります。

しかし、実際の歌声を聞いて、

「この感じ!」

と真似してみると、目標が分かりやすくなる場合があります。

例えば、

「この部分だけ声を軽くしたい」

という場合も、説明だけよりも実際の音を聞いたほうが理解しやすいことがあります。

メリット②|音程やリズムを学ぶ材料になる

歌を真似するときは、声質だけを真似しているわけではありません。

相手の、

  • 音程

  • 音の長さ

  • リズム

  • 音の入り方

  • 音の終わり方

  • フレーズ

なども聞いています。

そのため、上手な歌唱を注意深く聞くこと自体が、歌の分析になります。

特に、

「自分はどこが違うのか?」

を比較すると、練習するポイントが見つかりやすくなります。

メリット③|声の変化を体験できる

例えば、

「この部分だけ少し柔らかく歌っている」

と感じたら、自分でも同じような音を試してみます。

すると、

「声の出し方を変えると、こんなに音色が変わるのか」

という発見があります。

これは単なる知識ではなく、

自分の声を動かして確認する経験

になります。

メリット④|聴く能力も鍛えられる

真似するためには、相手の声をよく聞く必要があります。

例えば、

「音程は合っているけれど、声質が違う」

「音程は同じだけれど、タイミングが少し違う」

という違いを聞き分ける必要があります。

そのため、

真似る練習は「歌う練習」だけでなく「聴く練習」にもなる

と考えられます。

ただし、これを「真似すれば必ず聴覚能力が向上する」とまで断定するには、課題や対象者を分けた研究が必要です。

メリット⑤|自分では使っていなかった表現を知る事ができる

自分だけで歌っていると、

「自分がいつも使う声」

の範囲で歌いやすくなります。

そこで、違う歌手を真似してみる。

すると、

「こんな声の出し方もあるんだ」

と気づくことがあります。

例えば、

  • 強い声

  • 軽い声

  • 息っぽい声

  • 明るい声

  • 暗めの声

  • 音の入り方

  • ビブラート

  • 子音の強さ

などです。

これらを全部コピーする必要はありません。

「こういう表現もある」と知ること

に意味があります。

デメリット①|声そのものをコピーしようとしてしまう

ここが大きな注意点です。

好きな歌手の声を聞いて、

「この声になりたい」

と思うことは自然です。

しかし、人によって、

  • 声帯の形

  • 声道の形

  • 身体の大きさ

  • 年齢

  • 発声経験

  • 声の使い方

などが違います。

そのため、

他人の声そのものを完全に再現することは簡単ではありません。

特に、

「この歌手と同じ声量」「この歌手と同じ高音」「この歌手と同じ声質」

をそのまま目標にすると、自分に合わない発声になってしまう可能性があります。

デメリット②|「声を似せる事」と「歌が上手くなる事」は同じではない

これは重要なポイントです。

例えば、

ある歌手の声質をかなり上手に真似できる。

しかし、

  • 音程が不安定

  • リズムがずれる

  • 息が続かない

  • 高音で苦しくなる

ということもあります。

逆に、

歌手の声質はそれほど似ていなくても、

  • 音程が安定している

  • リズムが正確

  • フレーズが安定している

  • 声を無理なく使える

人もいます。

つまり、

「似ている」=「歌が上手い」

ではありません。

デメリット③|自分の声の良さが分からなくなる

好きな歌手を毎日真似していると、

「自分もこの声にならなければ」

と考えてしまうことがあります。

すると、

自分の声を評価する基準が、他人の声だけになってしまう

ことがあります。

これは、歌の練習では注意したい部分です。

目標となる歌手を持つことは悪いことではありません。

ただ、

「その人に似る」ことを最終目標にしなくてもいい

と思います。

デメリット④|声の高さまで無理に合わせてしまう

好きな歌手の曲を原曲キーで歌うことにこだわると、

「本人と同じ高さで歌いたい」

という意識が強くなることがあります。

しかし、

他人が出せる音域=自分が同じ条件で出せる音域

ではありません。

高い音になるほど、声帯の振動状態や声道、筋肉活動など、さまざまな調整が関係します。

そのため、

「本人が出しているから、自分も同じように出さなければいけない」

とは考えないほうがいいでしょう。

デメリット⑤|表面的な特徴だけを真似してしまう

例えば、

「この歌手は口を大きく開けている」

から、

「口を大きく開ければ同じ声になる」

と考えることがあります。

しかし、実際の歌声は一つの動作だけで決まるわけではありません。

声帯の振動、声門の状態、声道、舌、顎、呼吸などが相互に関係しています。

そのため、

見た目を真似するだけでは、その歌声の仕組みを再現できない

場合があります。

「歌手の真似」と「発声の真似」は分けて考える

ここは、ボイトレではかなり大切だと思います。

例えば、

「この歌手みたいに歌いたい」

という目標があるとします。

それを、

① 表現として真似する

  • フレーズ

  • リズム

  • 声の強弱

  • 音の入り方

  • 音の切り方

  • 感情表現

など。

これは歌の表現を学ぶ材料になります。

一方、

② 身体の使い方まで真似する

  • 喉の形

  • 口の形

  • 舌の位置

  • 声帯の状態

  • 呼吸の使い方

など。

こちらは、本人の身体の中で何が起きているのかを外から正確に判断することが難しくなります。

そのため、

聞こえた結果を真似することと、見た目の動作を真似することは同じではありません。

「声質を真似る」時は何を聞けばいい?

例えば好きな歌手を真似するとき、

「似ている・似ていない」

だけで判断するのではなく、分解して聞いてみます。

音程

目標の高さに合っているか?

リズム

音の開始・終了のタイミングは同じか?

音量

どこが強く、どこが弱いか?

声質

明るいのか、暗いのか、息っぽいのか、硬いのか?

母音

「あ・い・う・え・お」の形や響き方はどう違うか?

子音

子音をどの程度強く発音しているか?

フレーズ

どこで盛り上げ、どこで抜いているか?

こうして分解すると、

「真似する」

という練習がかなり具体的になります。

自分の声を録音して比較する

真似する練習では、

自分の声を録音する

ことも役立ちます。

例えば、

  1. お手本の歌を聞く

  2. 自分で歌う

  3. 録音する

  4. お手本と自分の歌を比較する

  5. 違いを1つだけ見つける

  6. もう一度歌う

という流れです。

例えば、

「音程は合っているけど、タイミングが違う」

と分かったら、次はタイミングだけを意識します。

全部を一度に直そうとするより、

違いを1つずつ確認する

ほうが、自分の課題を整理しやすくなります。

ただし「録音=完全な客観評価」ではありません

録音にも注意点があります。

スマートフォンのマイクや部屋の響きによって、

  • 声の明るさ

  • 低音

  • 音量

  • 響き

などの聞こえ方が変わります。

そのため、

「録音された声が自分の本当の声」

と考える必要はありません。

録音は、

自分の感覚と、実際に聞こえる音を比較するための材料

として使うのがおすすめです。

「お手本を聞く→すぐ真似する」だけではなく、分析してみる

例えば1フレーズを、

1回目

普通に聞く

2回目

音程だけ聞く

3回目

リズムだけ聞く

4回目

声質を聞く

5回目

自分で歌って録音する

というように分けてみます。

すると、

「この歌手は高音がすごい」

という漠然とした印象が、

「高音だけ音量を上げているわけではない」

「母音によって声の響き方が変わっている」

「音の入り方が柔らかい」

など、具体的な観察に変わります。

「真似する練習」と「自分で作る練習」を両方行う

僕は、

真似る練習だけにしない

ことも大切だと考えています。

例えば、

① 真似する

お手本に近づける。

↓

② お手本を外す

自分だけで歌ってみる。

↓

③ 録音する

自分の声を確認する。

↓

④ 違いを確認する

何が違うのか考える。

↓

⑤ 自分なりに調整する

自分の声に合う方法を探す。

この流れです。

こうすると、

「お手本のコピー」から「自分で調整できる歌」

へ進みやすくなります。

運動学習の視点でも「変化」が大切

前回の記事でも説明したように、運動学習では、練習する条件を変えることが技能の保持や転移に関係することがあります。

2024年の系統的レビュー・メタ分析では、ランダム練習が転移に有利な傾向が報告されていますが、実際の応用場面では効果が小さい場合もあり、すべての練習にそのまま当てはめられるわけではありません。

歌に置き換えるなら、

「お手本と完全に同じ状態を何度も作る」

だけでなく、

  • 少し音量を変える

  • 母音を変える

  • 音程を変える

  • 曲の一部分からフレーズへ広げる

  • お手本なしで歌う

  • 別の曲でも試す

など、条件を変えてみることにも意味があります。

「似せる能力」そのものも一つの技能

興味深いことに、歌唱経験が豊富な人は、声の模倣課題でもより正確に声を調整できることが報告されています。研究では、訓練された歌手が、声の高さや声道の長さに関係する特徴を、非歌手より正確に模倣していました。

また、歌声の音色まで模倣する高度な課題では、長期間の模倣経験がある人ほど、外部から聞こえる自分の声だけに頼らず、内部的な聴覚情報を利用して発声を調整できる可能性が示されています。ただし、この研究は高度な模倣経験を持つ人を対象としたもので、初心者にそのまま当てはめることはできません。

つまり、

「真似る」という行為そのものも、練習によって精度が変わる技能

と考えることができます。

内田のボイトレでは「誰かになる」のではなく「使える要素を見つける」

僕は、歌が上手い人を真似すること自体は、かなり良い練習になる場合があると思っています。

ただ、

「○○さんと同じ声にする」

というところだけを目標にはしません。

例えば、

「この歌手の高音への入り方が好き」

なら、その部分を研究する。

「この歌手の弱い声がきれい」

なら、その表現を研究する。

「この人は声量が大きくなくても聞き取りやすい」

なら、その聞こえ方を研究する。

というように、

一人の歌手を丸ごとコピーするのではなく、使える要素を見つける

という考え方です。

そして、それを自分の声に合わせて調整していきます。

「この歌手みたいに歌いたい」は、実は良い質問

「○○さんみたいに歌いたい」

という相談を受けた時、

僕はその言葉を、

「その歌手の声になりたい」

だけとは考えません。

その中には、

  • 高音が好き

  • 声質が好き

  • 音程が安定しているのが好き

  • 声量の変化が好き

  • 歌い方が好き

  • 感情表現が好き

  • リズム感が好き

など、いろいろな要素が含まれている可能性があります。

だから、

「どこが好きなのか?」

を分解すると、練習する内容が見えてくることがあります。

まとめ|真似る事は「コピー」ではなく「学ぶための材料」

歌が上手い人を真似することには、

  • 目標が分かりやすくなる

  • 音程やリズムを学べる

  • 声の変化を体験できる

  • 聴く力を使う機会が増える

  • 新しい表現を知ることができる

というメリットがあります。

一方で、

  • 声そのものをコピーしようとする

  • 無理に同じ音域を出そうとする

  • 見た目の動作だけを真似する

  • 他人の声を基準にしすぎる

  • 自分の声の特徴を見失う

といった注意点もあります。

だから僕は、

「上手い人を真似する」↓「何が違うのか分析する」↓「自分の声で試す」↓「録音して確認する」↓「自分に合う形へ調整する」

という流れがおすすめです。

歌が上手い人を真似することは、

その人になるためではなく、自分の声でできる事を増やすため。

そんなふうに考えると、模倣はボイトレの面白い練習方法の一つになると思います。

内田のボイトレ体験レッスン

「好きな歌手の歌い方を真似したい」

「でも、自分の声では同じようにできない」

「何を真似すればいいのか分からない」

そんな方は、実際に声を出しながら確認してみてください。

お手本と自分の声を比較しながら、

「何が違うのか」「何なら自分にも取り入れられるのか」

を一緒に考えていきましょう。

大切なのは、誰かの声をそのままコピーすることではありません。

お手本から学び、自分の声で使える形にしていくこと。

それも、ボイトレの一つの方法だと僕は考えています。

参考文献

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  • Czyż SH, Wójcik A, Solarská P. The effect of contextual interference on transfer in motor learning: a systematic review and meta-analysis. Frontiers in Psychology. 2024;15:1377122. DOI: 10.3389/fpsyg.2024.1377122. PMID: 39205981.

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