喉が疲れやすい原因とは?|歌うと声が出しにくくなる理由を科学的に解説

はじめに
声や歌については、文章で説明すると、どうしても分かりにくくなってしまうことがあります。僕自身も、ボイストレーニングや声について新しい知識を学んだとき、理解に時間がかかりました。この記事が、ボイトレをする上でのひとつのヒントになればと思います。詳しくは内田のボイトレ体験レッスンで、直接ご質問ください。
歌うと喉が疲れるのはなぜ?
「歌い始めは大丈夫なのに、途中から声が出しにくくなる」
「高音を出すと喉が苦しくなる」
「長時間歌うと、声がかすれたり、出しにくくなったりする」
このような悩みは、ボイストレーニングでも考える必要があるテーマです。
ただし、喉が疲れる原因を一つに決めることはできません。
声の疲れには、声を使った時間や音量、発声時の負担、乾燥などの環境要因、体調など、複数の要素が関係する可能性があります。
この記事では、声の疲れについて、科学的に分かっていることと、実際の練習で確認したいことを分けて解説します。
1.声の疲れには、どのような特徴がある?
声の疲れは、単に喉が痛い状態だけを指すわけではありません。
例えば、次のような変化が現れる場合があります。
声を出すのに、いつもより努力が必要に感じる
長く話したり歌ったりすると、声が出しにくくなる
声の大きさや高さを調整しにくく感じる
声のかすれや違和感が現れる
休むと楽になるが、声を使うと再び疲れを感じる
ただし、これらの症状がすべて同じ原因で起こるわけではありません。
声の疲れに関する研究レビューでも、症状は一様ではなく、声の使用制限、身体的な不快感、休息後の回復など、複数の側面が報告されています。
そのため、「喉が疲れる」という感覚だけから、声帯の状態や原因を特定することはできません。
2.発声努力感とは?
発声努力感とは、声を出すために、どの程度頑張る必要があると本人が感じるかを表す考え方です。
例えば、同じ高さの音を出していても、ある日は楽に感じ、別の日は強い努力が必要に感じる場合があります。
このような感覚は、実際の発声を考えるうえで大切な情報です。
ただし、発声努力感は主観的な感覚であり、声帯の状態を直接測定した数値ではありません。
努力感が強いからといって、必ず声帯に損傷があるとは限りません。一方、痛みがないからといって、必ず負担が少ないとも言い切れません。
本人の感覚と、実際に聞こえる声の変化を合わせて観察することが大切です。
3.喉が疲れやすくなる主な要因
① 声を使う時間や音量
長時間歌うことや、大きな声を出し続けることは、声に関わる組織や発声の調整に負担をかける可能性があります。
ただし、何分歌えば必ず疲れるという共通の基準があるわけではありません。
必要な休憩や練習量は、声の状態、歌う音域、音量、個人の経験などによって異なります。
練習時間だけでなく、練習中に声の出しやすさがどう変化するかを確認しましょう。
② 発声時の努力が大きくなっている
高音や大きな声を出すとき、必要以上に力を入れてしまう場合があります。
しかし、外から聞いただけで、特定の筋肉が過剰に働いていると断定することはできません。
例えば、「喉を締めているから疲れる」と感じる場合でも、実際には音高、音量、声質、母音、発声のタイミングなど、さまざまな条件が関係している可能性があります。
まずは、どの条件で出しにくくなるのかを観察することが大切です。
③ 空気の乾燥
乾燥した空気と発声努力感の関係を調べた研究があります。
Tannerら(2010)は、ソプラノ歌手34名を対象に、極めて低い相対湿度の空気を口呼吸で15分間吸入する条件を調べました。その結果、発声努力感が増加したと報告されています。
一方、この研究では、発声閾値圧(PTP)に統計的に有意な変化は認められませんでした。
この研究からは、特定の条件で乾燥した空気にさらされると、声を出す努力が増えたと感じる場合があることが分かります。
ただし、この結果を、すべての人や日常のあらゆる乾燥環境にそのまま当てはめることはできません。
乾燥について詳しく知りたい方は、関連記事「乾燥すると声が出しにくい?|声帯・湿度・発声努力感の関係を科学的に解説」も参考にしてください。記事公開後に内部リンクを設定します。
④ 体調や休息の状態
睡眠不足や体調不良などがあると、普段と同じ練習でも負担に感じる場合があります。
ただし、声の疲れを体調だけで説明することもできません。
疲れが強い日には、無理にいつもの練習量をこなそうとせず、声の状態に合わせて練習内容を調整しましょう。
4.喉が疲れたとき、ボイトレでは何を確認する?
喉が疲れたときは、単に「もっと力を抜こう」と考えるだけでなく、どの条件で疲れが現れるのかを整理すると、改善の方向性を考えやすくなります。
① 音高
低い音では問題がないのに、高音になると出しにくくなるでしょうか?
それとも、音高に関係なく疲れを感じるでしょうか?
② 音量
小さい声では楽に出せても、大きな声になると疲れる場合があります。
音量を変えたときの変化を確認しましょう。ただし、疲れているときに無理に大きな声を試す必要はありません。
③ 母音や声質
「あ」「い」「う」など、母音によって出しやすさが変わる場合があります。
また、息っぽい声、硬く感じる声、裏返りやすい声など、どのような声質で問題が起こるかも観察の手がかりになります。
④ 練習前後の変化
練習前と後で、声の出しやすさやかすれ、違和感に変化があるかを確認します。
ただし、疲れが出るまで練習を続ける必要はありません。痛みや声の明らかな変化が現れた場合は中止しましょう。
5.喉が疲れにくい練習を考える
① 練習量を調整する
長時間の練習を一度に行うよりも、声の状態を確認しながら練習時間や休憩を調整する方法があります。
ただし、短時間の練習がすべての人に最適という意味ではありません。必要な練習量は、目的や状態によって変わります。
② 無理のない音量から始める
高音や大きな声を最初から強く出そうとせず、無理のない音量で声の状態を確認しましょう。
ただし、小さな声で出せるだけで、発声が必ず適切だと判断できるわけではありません。
③ ストロー発声などを選択肢として検討する
ストロー発声やリップロールなどは、半閉鎖声道エクササイズ(SOVT)と呼ばれる練習に含まれます。
SOVTは音声訓練や音声治療で研究されている方法ですが、誰にでも同じ効果があるわけではありません。また、練習方法や目的によって結果が異なる可能性があります。
声が疲れているときに、どの練習でも続ければよいということではありません。苦しさが増す場合は中止してください。
④ 声の状態を記録する
練習した音高、音量、練習時間、声の出しやすさなどを記録すると、自分の傾向を把握する助けになります。
これは病気を診断する方法ではありませんが、レッスンで練習条件を整理する際にも役立ちます。
6.声の疲れと医療機関への相談
声の疲れが続く場合、痛みがある場合、声がかすれたまま戻らない場合などは、ボイストレーニングだけで解決しようとせず、耳鼻咽喉科などの医療機関に相談してください。
声の不調にはさまざまな原因があり、症状だけから声帯の状態を判断することはできません。
ボイトレは発声の習得や改善を支援するものですが、医療機関で行う診察や治療の代わりではありません。
まとめ|疲れた理由を一つに決めつけない
喉が疲れやすい原因には、声の使用量、音量、発声時の努力感、乾燥、体調など、複数の要因が関係する可能性があります。
「喉が疲れるから、必ず発声方法が悪い」とは限りません。また、声の疲れを我慢して練習を続ければ改善するとも限りません。
どの音高や音量で出しにくくなるのか、練習前後でどう変化するのかを確認し、無理のない範囲で練習を調整することが大切です。
内田のボイトレでは、最高音だけではなく、どのような条件で声を出せるのか、本人がどのように感じるのかも含めて考えることを大切にしています。
参考文献
What are the Symptoms that Characterize the Clinical Condition of Vocal Fatigue? A Scoping Review and Meta-Analysis.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36737268/
Potential Biophysiological Mechanisms Underlying Vocal Demands and Vocal Fatigue.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36008185/
Tanner K, et al.(2010)乾燥空気への曝露と発声努力感・発声閾値圧に関する研究https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20699338/
Vocal Training in Healthy Individuals: A Scoping Review.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35400555/


