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歌が上手い人と自分を比較するのは良い?悪い?|心理・脳・運動学習から考えるボイトレ

執筆者の写真: 内田のボイトレ
内田のボイトレ
10月9日
読了時間: 13分

はじめに

声や歌については、文章で説明すると、

どうしても分かりにくくなってしまうことがあります。

僕自身も、ボイトレや声について新しい知識を学んだとき、「なるほど」と頭では分かっても、実際に声を出してみるとすぐにはできないことがたくさんありました。

だからこそ、この記事では難しい内容もできるだけ分かりやすくまとめています。

すべてを一度で理解する必要はありません。

「そういう考え方もあるんだな」「これ、自分にも当てはまるかも」

そんなふうに、皆さんのボイトレや歌の練習の何か一つのヒントになれば嬉しいです。

そして、文章を読んでも「自分の場合はどうなんだろう?」と思ったら、ぜひ体験レッスンで直接質問してください。

実際に声を出しながら、一緒に確認していきましょう。

「この人みたいに歌いたい」と思ったことはありませんか?

歌を練習していると、

「この人みたいに歌いたい」

「自分も同じ曲を歌っているのに、なぜこんなに違うんだろう?」

と思うことがあります。

好きな歌手の歌を聴いたり、YouTubeなどで他の人の歌を聴いたりすると、自分の歌と比べたくなることもあるでしょう。

ボイトレでも、

  • 自分の歌を録音する

  • お手本の歌を聴く

  • 自分とお手本を比較する

  • 違いを見つける

  • その違いを練習する

ということがあります。

では、

歌が上手い人と自分を比較することは、良いのでしょうか?

それとも、

比較しないほうが良いのでしょうか?

結論から言うと、

比較すること自体が良い・悪いというわけではありません。

大切なのは、

「何と比較するのか」

「何を比較するのか」

「比較した結果をどう使うのか」

です。

例えば、

「あの人のほうが歌が上手い。自分はダメだ」

という比較は、練習につながりにくいかもしれません。

一方、

「あの人は高音になっても音量が大きく変化していない。自分は高音になると急に声が大きくなる。何が違うのだろう?」

と考えれば、具体的な練習課題を見つける材料になります。

つまり、内田のボイトレでは、

「人と比べて優劣を決める比較」ではなく、「自分の課題を発見するための比較」

をおすすめしています。

1.心理学には「社会的比較」という考え方がある

人間は、自分の能力や状態を判断するとき、他人を基準にすることがあります。

これは心理学で、

社会的比較(social comparison)

として研究されています。

例えば、

「自分は歌が上手いのかな?」

という疑問があったとしても、自分一人で歌っているだけでは判断が難しいことがあります。

そこで、

「他の人はどのくらい歌えているのだろう?」

と他者を見ることで、自分の位置を考えることができます。

つまり、他人との比較には、

自分の現在地を知るための情報

という側面があります。

ただし、比較の結果はいつも同じではありません。

自分より上手い人を見たことで、

「自分も頑張ろう」

と思う場合もあります。

一方で、

「自分には無理だ」

と感じる場合もあります。

社会的比較の研究では、比較対象との関係や、比較する目的、比較した人がどう意味づけるかなどによって、自己評価や感情への影響が変わることが示されています。

2.歌では「上手い人」と比較しやすい

例えば、

「高音が苦手」

という悩みがあるとします。

そこで、プロの歌手の高音を聴くと、

  • 音程が安定している

  • 声がきれい

  • 音量が安定している

  • 声質が魅力的

  • 表現力がある

  • リズムが安定している

など、自分との差がたくさん見えてきます。

すると、

「自分は全然できていない」

と感じてしまうことがあります。

実際に、音楽パフォーマンスや歌唱に関する研究でも、他者の高度なパフォーマンスに触れることが、自己評価や自己概念に影響する可能性が報告されています。

ただし、

「上手い人の歌を聴くと歌が下手になる」

という意味ではありません。

むしろ、上手い人の歌を観察することは、学習の材料にもなります。

問題は、

その比較を「自己否定」に使うのか、「分析」に使うのか

という点です。

3.比較には大きなメリットもある

他人と比較することには、もちろんメリットがあります。

メリット① 自分の現在地を知る材料になる

自分の歌だけを聴いていると、

「何が足りないのか」

が分からない場合があります。

そこで他人の歌を聴くと、

「ここが違う」

という部分に気づけることがあります。

例えば、

  • 音程

  • リズム

  • 音量

  • 声の強弱

  • 発音

  • 母音

  • フレーズ

  • タイミング

  • 声質

  • 表現

などです。

ただし、

全部を一度に比較しない

ことをおすすめします。

4.「歌が違う」ではなく、違いを細かく分解する

例えば、

「自分は高音が下手だ」

では、練習課題が分かりません。

そこで、

「何が違うんだろう?」

と分解してみます。

例えば、

音程は?

自分も同じ音程を出せているのか?

音量は?

高音になると自分だけ急に大きくなっていないか?

声質は?

自分の声は急に重くなっていないか?

母音は?

高音になると母音の形が変わっていないか?

タイミングは?

子音や母音を出すタイミングが違っていないか?

フレーズは?

どこにアクセントを置いているのか?

このように分解すると、

「あの人は上手い」

という曖昧な比較が、

「自分と何が違うのか」

という具体的な分析に変わります。

5.比較は「目標」を作るためにも使える

好きな歌手を聴いて、

「こんなふうに歌えるようになりたい」

と思うことは、練習のモチベーションになる場合があります。

ただし、

「その人と完全に同じ声になる」

必要はありません。

人によって、

  • 声帯

  • 声道

  • 身体的特徴

  • 音域

  • 音色

  • 発声経験

  • 音楽経験

などは違います。

そのため、

「その人そのものになる」

よりも、

「その人の歌のどの部分を自分の目標にするのか」

と考えるほうが、練習しやすくなります。

例えば、

「この歌手の高音の響きが好き」

なら、

「高音の響き」

を観察する。

「この歌手のリズム感が好き」

なら、

「リズムやタイミング」

を観察する。

このように、

人ではなく、技術的な要素を目標にする

ことができます。

6.「観察すること」と「比較すること」は少し違う

ここもボイトレでは大切です。

例えば、

「この歌手と自分はどちらが上手い?」

というのは、評価を目的とした比較です。

一方、

「この歌手はどうやってこのフレーズを歌っているのだろう?」

というのは、観察です。

運動学習の研究では、他者の動作を観察することが、その後の運動学習に役立つ可能性が研究されています。

音楽技能でも、演奏者の動作を観察してから実際に演奏するような「Action Observation Training」などが研究されています。

ただし、

楽器演奏などで得られた研究結果を、そのまま歌唱に当てはめることはできません。

歌唱については、聴覚・発声・呼吸・声道・音程・リズムなど複数の要素が関係するためです。

そのため、

「上手い人を見れば、それだけで歌が上手くなる」

とは考えません。

大切なのは、

観察 → 自分で実行 → フィードバック → 修正

という流れです。

7.脳では何が起きている?

「上手い歌手の歌を聴くと、脳の中でその人の発声が再現される」

というような説明を見かけることがあります。

しかし、これは簡単に断定できる話ではありません。

音楽には、

  • 聴覚

  • 運動

  • 注意

  • 記憶

  • 感情

  • 予測

  • 認知

など、複数のシステムが関係します。

また、社会的比較そのものについても脳画像研究が行われています。

上方比較と下方比較では、報酬・自己評価・葛藤などに関係する脳領域の活動に違いがみられることが報告されています。

ただし、

「この脳領域が活動したから歌が上手くなる」

というところまで単純化することはできません。

脳画像研究は、

比較しているときに脳内でどのような処理が関係しているのかを理解するための手がかり

として考えるほうが適切です。

8.歌を真似することと、歌が上手くなることは同じではない

例えば、好きな歌手の歌を何度も聴いて、

「同じように歌おう」

と練習することがあります。

これは歌の学習に利用できる方法の一つです。

しかし、

「真似できた=正しく身についた」

とは限りません。

例えば、

「声の雰囲気は似たけれど、音程が不安定」

「声は似ているけれど、喉に負担がかかっている」

「歌手の声質は真似できたけれど、自分の音域では再現できない」

ということもあります。

だからこそ、

模倣した結果を確認する

ことが必要になります。

9.歌では「自分の評価」も意外と難しい

ここもボイトレでは重要なポイントです。

自分の歌を聴いて、

「今日は上手く歌えた!」

と思う日もあれば、

「最悪だった……」

と思う日もあります。

しかし、

その感覚が必ずしも客観的な歌唱評価と一致するとは限りません。

歌唱者が自分の歌を評価するときの正確性についても研究が行われており、自分自身の歌唱を客観的に評価することには難しさがあることが示されています。

これは、

「自分の感覚は信用できない」

という意味ではありません。

むしろ、

自分の感覚+録音+第三者からの具体的なフィードバック

を組み合わせることで、より多角的に自分の歌を確認できます。

10.だから「録音」が役立つ

僕がボイトレで録音をおすすめする理由の一つもここです。

歌っている最中は、

  • 音程

  • 呼吸

  • 声の感覚

  • 歌詞

  • リズム

  • 発音

  • 次のフレーズ

など、いろいろなことを同時に処理しています。

そのため、

歌っている本人には気づきにくい違い

があります。

録音すると、

「思っていたより声が大きくなっている」

「ここだけ音程が下がっている」

「この部分だけリズムが遅れている」

などを後から確認できます。

そして、お手本の歌と自分の録音を比較すると、

「何が違うのか」

を具体的に考えやすくなります。

11.比較の最大の問題は「技術」から「自分の価値」へ変わること

例えば、

「Aさんは高音が出る」

↓

「自分は高音が出ない」

↓

「Aさんのほうが才能がある」

↓

「自分には才能がない」

となってしまうことがあります。

ここには大きな飛躍があります。

最初は、

「高音という一つの技術」

を比較していたはずです。

それが、

「自分という人間全体の評価」

に変わってしまっています。

これは避けたいところです。

高音が出ないことと、

「歌の才能がない」

ことは同じではありません。

さらに、

「今できない」

ことと、

「これからもできない」

ことも同じではありません。

12.比較には「同化」と「対比」の両方がある

自分より上手い人を見たとき、

「自分もこんなふうになりたい」

と、その人を目標として捉える場合があります。

一方で、

「自分とは全然違う」

と差を強く感じる場合もあります。

心理学では、このように比較によって、

相手との差を強く感じる「対比」

だけではなく、

相手に近づいたように感じる「同化」

が生じる可能性も研究されています。

だから、

上手い人を見る=必ず落ち込む

わけではありません。

同じ歌を聴いても、

「自分には無理」

となる人もいれば、

「こうなりたい!」

と練習意欲が高まる人もいます。

比較の影響は、その人の状態や比較の仕方によって変わります。

13.僕がおすすめしたいのは「人」ではなく「要素」を比較すること

例えば、

あまりおすすめしない比較

「この歌手のほうが自分より歌が上手い」

これでは、次に何を練習すればいいのか分かりません。

おすすめしたい比較

「この歌手は高音になっても音量が急激に大きくならない」

↓

「自分は高音になると音量が上がる」

↓

「では、音程を維持したまま音量を抑えてみよう」

このように、

比較 → 分析 → 仮説 → 練習

へ変換します。

すると、

比較が自己否定ではなく、練習の材料になります。

14.「昨日の自分」と比較することも大切

他人との比較だけではなく、

過去の自分との比較

も大切です。

例えば、

1か月前の録音と今日の録音を比べてみます。

すると、

  • 音程が安定した

  • 高音が少し楽になった

  • リズムが安定した

  • 声が疲れにくくなった

  • 発音が明確になった

  • フレーズを長く保てるようになった

など、自分では気づきにくかった変化が見つかることがあります。

他人との比較は、

「基準や目標を知るため」

に使う。

過去の自分との比較は、

「自分の変化を確認するため」

に使う。

このように役割を分けるのも一つの方法です。

15.比較するなら「5段階」にしてみる

僕がおすすめしたい方法を、簡単にまとめます。

STEP 1 お手本を聴く

好きな歌手や、自分が目標にしたい歌を聴きます。

STEP 2 比較する項目を1つ決める

全部を比較しません。

例えば、

「今日は高音だけ」

と決めます。

STEP 3 自分の歌を録音する

できれば同じ曲・同じ部分を録音します。

STEP 4 違いを具体化する

例えば、

「高音が下手」

ではなく、

「高音になると音量が大きくなる」
「音程が少し低くなる」
「母音が変わっている」

など、できるだけ具体的にします。

STEP 5 1つだけ練習する

見つけた課題を全部直そうとしません。

まず一つ練習します。

そして、もう一度録音します。

16.この流れは運動学習としても考えやすい

この方法は、

比較 → 分析 → 実行 → フィードバック → 修正

という流れになります。

運動学習では、単に知識を得るだけではなく、

実際に動いて、結果を確認し、必要に応じて修正する

ことが重要です。

歌も同じで、

「この歌手はこう歌っている」

と理解しただけでは、自分の声が変わるとは限りません。

実際に声を出して、

「どうなった?」

を確認する必要があります。

だから僕は、

「聴いて終わり」ではなく「聴く → 歌う → 確認する」

ところまでを一つの学習として考えています。

17.比較することをやめる必要はない

ここまで読むと、

「じゃあ、他人と比べないほうがいいの?」

と思うかもしれません。

僕は、

比較そのものをやめる必要はない

と考えています。

むしろ、

比較の使い方を変える

ことが大切です。

例えば、

比較を自己否定に使う

「あの人は上手い。自分は下手。」

ではなく、

比較を分析に使う

「あの人と自分は、どこが違う?」

さらに、

比較を練習に使う

「その違いを小さくするには、何を練習すればいい?」

と考えます。

18.そして、最後は「自分で判断できるようになる」こと

ボイトレで僕が大切だと思っているのは、

先生に「正解」を教えてもらい続けることだけではありません。

最終的には、

「今の自分の声はどうだった?」

「何が変わった?」

「何を練習すればいい?」

と、自分自身でも考えられるようになることが大切だと思っています。

そのためには、

他人との比較

も、

過去の自分との比較

も、

録音による比較

も、全部使えます。

大切なのは、

「比較して自分を評価する」

のではなく、

「比較して、自分の状態を知る」

ことです。

まとめ|比較するなら「優劣」ではなく「違い」を見る

歌が上手い人と自分を比較することには、メリットもデメリットもあります。

メリット

  • 自分の現在地を知る材料になる

  • 目標を作りやすい

  • 技術的な違いに気づける

  • 練習課題を具体化できる

  • 観察や模倣の材料になる

デメリット

  • 自分を低く評価してしまう可能性がある

  • 他人との差を大きく感じてしまう場合がある

  • 技術の問題を「才能の問題」にしてしまうことがある

  • 「できない自分」そのものを否定してしまう可能性がある

だから、

「比較しない」ことが答えではありません。

大切なのは、

「あの人のほうが上手い」

ではなく、

「あの人と自分は、何が違う?」

と考えることです。

そして、

比較 → 分析 → 練習 → フィードバック

につなげていく。

さらに、

他人との比較だけではなく、過去の自分とも比較する。

これによって、比較は自己否定の材料ではなく、

自分の歌を理解するための情報

として使えるようになります。

僕自身も、ボイトレでは「この人のほうが上手い・下手」という評価だけで終わらせるのではなく、

「なぜ違って聞こえるのか?」

「その違いは、どこから生まれているのか?」

「今の自分には何ができるのか?」

を一緒に考えていきたいと思っています。

そして最終的には、

誰かと比べなくても、自分の声を自分で観察し、課題を見つけ、練習方法を考えられるようになること。

それも、ボイトレで身につけていきたい大切な力の一つだと考えています。

「自分の歌のどこが、他の人と違うのか分からない」

という場合も、まずはそこから一緒に確認していきましょう。

 
 

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