子供の頃は高い声が出たのに大人になると出なくなるのはなぜ?|加齢と高音の関係をボイトレの視点から解説

はじめに
声や歌については、文章で説明すると、
どうしても分かりにくくなってしまうことがあります。
僕自身も、ボイトレや声について新しい知識を学んだとき、「なるほど」と頭では分かっても、実際に声を出してみるとすぐにはできないことがたくさんありました。
だからこそ、この記事では難しい内容もできるだけ分かりやすくまとめています。
すべてを一度で理解する必要はありません。
「そういう考え方もあるんだな」「これ、自分にも当てはまるかも」
そんなふうに、皆さんのボイトレや歌の練習の何か一つのヒントになれば嬉しいです。
そして、文章を読んでも「自分の場合はどうなんだろう?」と思ったら、ぜひ体験レッスンで直接質問してください。
実際に声を出しながら、一緒に確認していきましょう。
子供の頃は出ていた高音が、大人になると出なくなるのはなぜ?
「子供の頃は高い声が簡単に出たのに、大人になったら出なくなった」
「昔はカラオケで高い曲を歌えたのに、今は高音が苦しい」
このような経験をする人は少なくありません。
では、これは単純に
「年齢を重ねたから高音が出なくなった」
のでしょうか?
結論から言うと、年齢による身体的な変化は関係しますが、それだけが原因とは限りません。
特に、
成長による喉頭・声帯の変化
性ホルモンなどによる身体の変化
声帯の長さ・厚さ・組織の変化
喉頭周辺の筋肉や神経の働き
呼吸や声門閉鎖の変化
発声習慣の変化
高音を使わなくなった事による運動学習の変化
声帯の病気や炎症など
が複合的に関係する可能性があります。
つまり、
「昔は出た=今も同じ方法なら出るはず」
とも、
「大人になった=もう高音は出せない」
とも言い切れません。
1.まず「子供の高い声」と「大人の高い声」は同じではありません
子供の声と成人の声では、発声器官そのものが成長しています。
声帯も成長に伴って形態が変化し、喉頭や声道のサイズも変化します。
特に思春期以降は、身体的な成熟によって声の性質が大きく変わります。
声帯の成長や声道の変化によって、声の高さや声質も変化していきます。
そのため、
「子供の頃に出ていた高音」
と
「大人になって出したい高音」
は、同じ音域であったとしても、同じ発声状態とは限りません。
2.「声変わり」は大きな要因の一つ
特に男性では、思春期の声変わりによる変化が大きくなります。
喉頭や声帯が成長すると、声帯の振動特性が変化します。
その結果、
基本周波数(F0)が変化する
声質が変わる
以前と同じ感覚で声を出せなくなる
といった変化が起こります。
女性でも思春期やその後のホルモン環境などによって声は変化します。
つまり、
「子供の頃の高音が出なくなった」
という現象の一部は、単純な老化ではなく、
成長による発声器官の変化
として考える必要があります。
3.では「若い頃は出たのに、大人になって出なくなった」は加齢なの?
ここは少し分けて考える必要があります。
例えば、
A.10歳 → 20歳
これは主に、
成長・成熟による変化
を考える段階です。
一方、
B.20歳 → 40歳
C.40歳 → 60歳
のように年齢を重ねた場合は、徐々に加齢による変化も関係してきます。
声は年齢とともに変化します。
特に高齢になると、声帯や喉頭の組織、筋肉、粘膜、呼吸機能などに変化が生じる事が知られています。
このような加齢に伴う声の変化は「presbyphonia(加齢性音声障害)」として研究されています。
ただし、
「高音が出ない=加齢性音声障害」
という意味ではありません。
4.加齢によって声帯にも変化が起こる
年齢を重ねると、声帯にも組織的な変化が起こります。
例えば、
声帯筋の萎縮
弾性線維の変化
声帯粘膜の変化
ヒアルロン酸など細胞外基質の変化
声帯の振動特性の変化
声門閉鎖の変化
などが報告されています。
こうした変化によって、
声が弱くなる
息漏れが増える
声がかすれる
声が不安定になる
声域が変化する
などが起こる場合があります。
しかし、加齢による声の変化には個人差があります。
同じ年齢でも、声の状態が大きく違う人はいます。
5.「高音が出ない=声帯が老化した」とは限らない
ここがボイトレでは非常に大切な考え方です。
例えば、
「昔は高い声が出た」
という人が、
「最近、高音が出ない」
と感じたとしても、その原因が声帯そのものの老化だとは限りません。
例えば、
① 高音を使わなくなった
以前はよく歌っていたけれど、最近はあまり歌っていない。
すると、高音を出すための協調運動を使う機会が減ります。
これは「声帯が壊れた」という話とは別です。
② 発声方法が変わった
昔は自然にできていた発声が、現在は
力む
押し出す
息を出しすぎる
声門閉鎖を強くしすぎる
高音になると音量まで上げてしまう
などの方法になっている可能性があります。
すると、高音そのものよりも、
高音を出すための協調関係
が問題になっている可能性があります。
③ 声の使い方が変わった
仕事などで話す時間が増えたり、普段の声の使い方が変わったりすると、歌う時の発声にも影響する場合があります。
「昔の自分の声の感覚」を、そのまま現在の身体に当てはめようとすると、無理が出る場合があります。
6.高音は「喉の筋肉1つ」で出しているわけではありません
高音を出す時には、声帯の振動特性を変化させる必要があります。
例えば声帯の伸展に関係する筋肉として、
輪状甲状筋(CT)
があります。
一方、甲状披裂筋(TA)なども声帯の振動に関係します。
ただし、
高音=CTだけ
低音=TAだけ
のように単純に分ける事はできません。
実際の歌声では、複数の筋肉や声帯の振動、声門閉鎖、呼気、声道の状態などが協調して働きます。
そのため、
「昔はCTが使えていたけれど、年齢でCTが使えなくなった」
と単純化するのは適切ではありません。
7.「使っていないから出なくなった」という可能性もある
これはボイトレを考える上で重要な視点です。
例えば子供の頃には、
大声を出す
叫ぶ
遊びながら声を出す
高い声を自然に使う
声を自由に変化させる
といった経験が多かった人もいます。
ところが大人になると、
「そんな高い声を出さない」
「人前では大きな声を出さない」
「歌う機会が減った」
というように、声を使う範囲が変わる事があります。
すると、
高音を出す能力そのものより、高音を使うための運動パターンを使う機会が減っている
可能性があります。
もちろん、これだけで全員の高音低下を説明できるわけではありません。
しかし、
「年齢=能力低下」だけで考えない
事は大切です。
8.「昔は出た」のに、今は苦しい場合に確認したい事
僕がボイトレで見るなら、まず「何が変わったのか」を分けて考えます。
例えば、
昔
高音が出た
小さい声でも出た
地声から裏声に移動できた
長時間歌えた
↓
現在
高音だけ出ない
高音になると大きくなる
高音で喉が締まる
裏声は出る
声がかすれる
声が疲れやすい
このように変化を整理します。
すると、
「高音が出ない」
という一つの問題でも、原因の候補が変わってきます。
9.改善方法①「昔の声を取り戻す」より、現在の声を確認する
高音が出なくなると、
「昔の声に戻したい」
と思う人も多いと思います。
ただ、僕はまず、
今の自分の声がどのような状態なのかを確認する
事をおすすめします。
例えば、
現在の最低音
現在の最高音
小さい声で出せる音域
大きい声で出せる音域
裏声の音域
地声寄りの発声の音域
声が苦しくなるポイント
声が疲れるポイント
などを確認します。
そして、
「出る・出ない」だけではなく、「どの条件なら出るのか」
を見る事が大切です。
10.改善方法②「高音=大きな声」にしない
高音が出なくなった人によくあるのが、
高くなるほど声を大きくする
という発声です。
例えば、
「この音を出さなければ!」
と思って、
息を強く吐く。
喉を強く閉じる。
声を前に押し出す。
すると、一時的に音が出ても、非常に苦しい発声になる場合があります。
高音を練習する時には、
「大きく出す」より「必要な条件で出せる」
事を優先した方がよい場合があります。
11.改善方法③ 裏声を「弱い声」と決めつけない
高音練習では、
「地声で高い音を出したい」
と考える人が多いです。
しかし、高音域を練習する時に裏声系の発声を利用する事もあります。
例えば、
低い音から高い音へ滑らかに移動する練習をしたり、
小さな声で高音を確認したり、
地声寄り・裏声寄りのさまざまな発声を比較したりします。
大切なのは、
「地声か裏声か」の二択だけで考えない事
です。
声は連続的に変化する部分もあり、歌唱ではさまざまな協調関係が使われます。
12.改善方法④ 高音だけを練習しない
高音が出ないからといって、
「毎日、一番高い音を何回も出す」
という練習が必ずしも適切とは限りません。
むしろ、
低い音↓中間音↓少し高い音↓高音
と、声の状態を確認しながら進める方が安全に練習しやすい場合があります。
特に、
「高音になると急に力が入る」
のであれば、
高音そのものより、高音へ移動する途中の協調関係
を見る必要があります。
13.改善方法⑤「昔できた」を練習の基準にしすぎない
これは意外と大切です。
「昔はこの曲を歌えた」
「昔はこの音が出た」
という記憶があると、
現在の自分の声に対して、
「できるはずなのに、なぜできないんだろう」
と考えてしまいます。
しかし、身体は変化しています。
成長でも変化しますし、加齢でも変化します。
だからこそ、
過去の自分と競争するのではなく、現在の自分の状態を測る
事が大切です。
昔より高音が出なくなっていたとしても、
そこから現在の状態に合わせて改善できる部分はあります。
14.それでも「加齢」が関係する場合は?
もちろん、加齢による変化を無視する必要はありません。
高齢になると、声帯の筋肉や粘膜、結合組織、喉頭、呼吸機能などに変化が起こる事があります。
特に、
声が急に弱くなった
声がかすれる
息漏れが強くなった
声が震える
声が出しにくくなった
以前より明らかに声が疲れやすい
などがある場合は、
「単純に年齢のせい」
と決めつけない方がよいでしょう。
15.高音が出なくなった時、耳鼻咽喉科を受診した方がいい場合
特に、
以前は普通に出ていた声が、比較的短期間で大きく変化した
場合は、ボイトレだけで判断しない方がよい場合があります。
例えば、
声のかすれが続く
声が出しにくい
声が急に変化した
痛みがある
話し声にも変化がある
息漏れが強くなった
声が極端に弱くなった
などの場合です。
加齢による声の変化にも、医療的な評価や音声訓練によって改善が期待できるケースがあります。系統的レビューでも、加齢性音声の改善に音声治療が有効である事が報告されています。
ボイトレと医療は競争するものではありません。
必要であれば、
耳鼻咽喉科で声帯の状態を確認する→ 問題を整理する→ ボイトレで発声を学習する
という流れも考えられます。
16.「高音が出ない」を4つに分けて考える
僕なら、高音の問題を次のように考えます。
① 身体的な問題
声帯・喉頭・呼吸器などに何らかの問題がある。
↓
医療機関での評価が必要になる場合があります。
② 成長・加齢による変化
声帯や喉頭、声道、筋肉、組織などが変化している。
↓
現在の身体に合わせた発声を考える。
③ 発声の問題
高音になると、
力む
押す
息を出しすぎる
声門閉鎖を強くしすぎる
などが起こる。
↓
発声協調を見直す。
④ 運動学習の問題
高音を出すための協調運動を、現在うまく再現できていない。
↓
小さな範囲から練習して、フィードバックを繰り返す。
この4つを分けるだけでも、
「年齢だから仕方ない」
という一言では説明できない事が見えてきます。
17.「大人になったら高音は出なくなる」は本当?
これは、少し言い換えた方がよいと思います。
「年齢とともに声の条件は変化する。しかし、それは高音が必ず出なくなるという意味ではない」
という考え方です。
年齢によって声帯や喉頭などに変化が起こる事は科学的に確認されています。
一方で、声の変化には大きな個人差があります。
そして、発声は身体の状態だけで決まるものではありません。
身体+発声方法+声の使用量+運動学習+練習方法+健康状態
などを総合的に考える必要があります。
18.ボイトレでは「何歳だから何Hz」では考えない
「40歳だからこの音まで」
「50歳だからこの音は無理」
というように、年齢だけで上限を決めてしまうのはおすすめしません。
もちろん年齢による身体的変化はあります。
しかし、個人差があるからです。
同じ年齢でも、
声域
声量
声質
裏声
高音への移行
声の疲れやすさ
は大きく異なります。
だからこそ、
年齢ではなく、現在の声を観察する
事が大切です。
19.昔の高音を取り戻すために必要なのは「昔の自分を再現する事」ではない
僕はここを大切にしたいと思っています。
昔の自分と現在の自分では、身体が違います。
だから、
「昔と同じ感覚で出そう」
とするより、
「現在の自分の身体では、どうすれば効率よく高音を出せるのか?」
を考えた方が、練習の方向性を作りやすくなります。
昔の高音が出なくなった。
↓
なぜ?
↓
身体の変化?
発声の変化?
声を使う量の変化?
運動学習?
健康状態?
↓
現在の状態を確認する。
↓
必要な練習を選ぶ。
↓
少しずつ再学習する。
この流れです。
まとめ
子供の頃や若い頃には出ていた高音が、大人になって出しにくくなる原因は、
「加齢だから」だけではありません。
成長による声帯・喉頭の変化、ホルモン環境、声の使い方、発声習慣、運動学習、そして加齢に伴う身体的変化など、さまざまな要因が関係します。
特に大切なのは、
「昔は出たのに、今は出ない」
という現象を、一つの原因だけで決めつけない事です。
まず、
現在どの音なら出るのか。どの音から苦しくなるのか。小さい声なら出るのか。裏声なら出るのか。話し声にも変化があるのか。
を確認してみてください。
その上で、
身体的な問題なのか、発声の問題なのか、運動学習の問題なのか。
一つずつ整理していく。
それが、僕が考える「高音を取り戻すためのスタート地点」です。
そして、以前より高音が出なくなったとしても、
「もう年齢だから無理」
と最初から決めつける必要はありません。
年齢による身体の変化を理解した上で、今の自分の声に合った方法を探していきましょう。
参考文献
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