地声が強い=声帯閉鎖が強い?声帯の厚さ・圧着・声量の関係を徹底解説|内田のボイトレ

はじめに
声や歌については、文章で説明すると、
どうしても分かりにくくなってしまうことがあります。
僕自身も、ボイトレや声について新しい知識を学んだとき、「なるほど」と頭では分かっても、実際に声を出してみるとすぐにはできないことがたくさんありました。
だからこそ、この記事では難しい内容もできるだけ分かりやすくまとめています。
すべてを一度で理解する必要はありません。
「そういう考え方もあるんだな」「これ、自分にも当てはまるかも」
そんなふうに、皆さんのボイトレや歌の練習の何か一つのヒントになれば嬉しいです。
そして、文章を読んでも「自分の場合はどうなんだろう?」と思ったら、ぜひ体験レッスンで直接質問してください。
実際に声を出しながら、一緒に確認していきましょう。
地声が強い=声帯閉鎖が強い?
「地声が強い人は、声帯閉鎖が強いのでしょうか?」
ボイトレでは、よく出てくる疑問です。
結論から言うと、
「地声が強い=声帯閉鎖が強い」だけでは説明できません。
地声の「強さ」には、
声帯の厚み
声帯の内転・接触
声門閉鎖のタイミング
声門下圧
呼気流量
声帯の張力・硬さ
TA・CTなど喉頭筋群の協調
声道の共鳴
声帯振動の振幅
音響的な放射効率
など、複数の要素が関係します。
そのため、
「声が大きいから声帯を強く閉じている」
と決めつけるのは適切ではありません。
1.そもそも「声帯閉鎖」とは何なのか?
まず、「声帯閉鎖」という言葉を整理してみましょう。
声帯は、発声中ずっと完全に閉じっぱなしになっているわけではありません。
左右の声帯が接近し、振動する中で、
閉じる時間
と
開いている時間
があります。
この振動周期の中で、声帯がどの程度の時間接触しているかを表す指標の一つが、
Closed Quotient(CQ:閉鎖率)
です。
ただし、
CQが高い=声帯が強く圧着されている
と完全に同じ意味ではありません。
研究上も、CQは声帯接触の時間を表す指標であって、「完全に閉じている時間」と必ずしも同義ではないとされています。
この区別はかなり重要です。
2.「声帯閉鎖」と「声帯の圧着」は同じではない
例えば、
声帯が近づいている
という状態と、
声帯同士が強い力で接触している
という状態は同じではありません。
さらに、
接触している時間が長い
という状態と、
接触時の圧力が高い
という状態も同じではありません。
つまり、
内転・閉鎖↓接触↓接触時間↓接触圧
を分けて考える必要があります。
今回のテーマでいう「地声が強い」を理解するには、この区別が重要になります。
3.声帯の「厚さ」も関係する
ここが今回のテーマでは特に重要です。
声帯は、単純な細い紐ではありません。
声帯には、
body
cover
という構造的な考え方があり、声帯の厚みや形状が振動に影響します。
近年の声帯モデル研究では、声帯の内側表面の垂直方向の厚みが、声門閉鎖パターンやClosed Quotient、音色に大きな影響を与えることが示されています。
つまり、
声帯が厚い状態
と
声帯が薄い状態
では、同じ「声帯を閉じる」という言葉でも、実際の振動状態が違ってきます。
4.TA筋は声帯の厚みに関係する
甲状披裂筋、いわゆる
TA筋
は、声帯の形状や振動特性に関係する重要な筋肉です。
TAの活動が増えると、声帯の長さや形状、内側への膨らみ、接触面積などが変化することがモデル研究で示されています。
そのため、
「地声が強い」
という現象を考える時には、
声門閉鎖だけではなく、声帯の厚みやTAを含む声帯の形状変化
も考える必要があります。
ただし、
「地声=TA」
と単純に置き換えることもできません。
実際の歌唱では、TA・CTなど複数の筋肉が協調して働きます。
5.では「地声が強い人」は何が起こっている?
例えば、ある人が、
「低音~中音域の地声がものすごく強い」
とします。
この場合、
パターンA
声帯が比較的厚い状態で振動している。
↓
パターンB
声帯の内転・接触がしっかりしている。
↓
パターンC
声門下圧が高い。
↓
パターンD
これらが複合している。
という可能性があります。
さらに、
パターンE
声道側で音響エネルギーが効率よく放射されている
という可能性もあります。
したがって、
「声が強い=閉鎖だけが強い」
とは言えません。
6.「声が大きい」と「声帯の圧着が強い」は別問題
ここはかなり重要な区別です。
例えば、
声が大きい
という結果を作る代表的な要素として、
声門下圧
があります。
声門下圧が増えると、声帯振動の振幅などが増加し、音源の強度が増します。声の強度は主として声門下圧に強く影響されることが、声の生理学・モデル研究で示されています。
つまり、
大きい声=声帯を強く圧着
とは限りません。
むしろ、
大きい声を作るために声門下圧が高くなっている
というケースもあります。
7.では「声帯の圧着面積」は?
ユーザーさんが言う、
「声帯の圧着面積」
という考え方は、発声を考える上で面白い視点です。
ただ、正確には、
接触面積
だけではなく、
接触圧
や
接触時間
などを分けて考える必要があります。
例えば、
接触面積が大きい
↓
声帯同士が接触する範囲が広い
という状態と、
接触圧が高い
↓
接触した時に大きな力がかかる
という状態は違います。
さらに、
接触時間が長い
↓
1周期の中で接触している割合が高い
という状態もあります。
これらは関連しますが、同じものではありません。
8.声帯接触圧と声量には関係がある
声帯同士がぶつかる時には、接触圧が発生します。
モデル研究では、声帯接触圧は声の強度(SPL)や声門下圧、Closed Quotientなどと関連することが示されています。特に声の強度との相関が比較的大きいことが報告されています。
また、声門下圧が高い状態で声帯が接触すると、接触時の衝突・圧力も大きくなりやすくなります。
そのため、
大きな声を出す
↓
声門下圧が上がる
↓
声帯振動の振幅が大きくなる
↓
条件によっては
声帯接触圧も大きくなる
という関係が考えられます。
ただし、これは
「大きい声=必ず強い圧着」
という意味ではありません。
9.「強い地声」の人に何が起こっているのか?
例えば、
「地声が強くて、声量を下げるのが苦手」
という人を考えてみます。
この場合、僕なら次のような仮説を立てます。
仮説①
声帯の厚みが大きい状態を使いやすい
↓
大きな振動エネルギー
↓
地声が強く感じられる。
仮説②
声門閉鎖・内転が強め
↓
声門抵抗が高い
↓
呼気圧を高めやすい
↓
声量が大きくなる。
仮説③
声門下圧が高い
↓
声帯振動の振幅が大きくなる
↓
音圧が高くなる。
仮説④
音高と声量がセットになっている
例えば、
「この音=このくらいの強さ」
という運動パターンが形成されている。
↓
小さくしたいのに、いつもの強い発声が出る。
仮説⑤
声道の共鳴・放射効率が高い
声帯そのもののエネルギーだけでなく、声道側の条件によっても、外に出る音の強さは変化します。
10.「閉鎖を弱くする」だけでは解決しない
ここも注意が必要です。
「声が強すぎる」
↓
「じゃあ声帯閉鎖を弱くしましょう」
という指導だけでは、問題が解決しない場合があります。
なぜなら、
声量は
声門閉鎖だけで決まっていない
からです。
例えば、
声門下圧
が高いまま、
閉鎖だけを弱くすると、
息漏れの多い声になる可能性があります。
つまり、
閉鎖を弱くする
ではなく、
必要な閉鎖を保ちながら、過剰な声門下圧・過剰な接触・過剰な振動振幅を調整する
という考え方が必要です。
11.「声量を下げる」とは何を下げるのか?
ボイトレでは、
「小さくしてください」
と言われる事があります。
しかし、生理学的には、
何を小さくするのか?
を考えた方が良いでしょう。
例えば、
① 声門下圧を下げる
↓
声帯振動のエネルギーを下げる。
② 声帯振動の振幅を下げる
↓
音源の強度を下げる。
③ 声帯接触の状態を変える
↓
声質・スペクトル・閉鎖パターンを変える。
④ 声道の共鳴条件を変える
↓
外部へ放射される音響エネルギーを変える。
つまり、
「小さい声」は一つの操作では作れません。
12.ここで前の記事の「グリスダウン」がつながる
前の記事で、
「グリスダウンなら小さくできるのに、同じ音では小さくできない」
という話をしました。
今回の「地声が強い」というテーマも、ここにつながります。
例えば、
高音を単音で出す
↓
声帯を厚めに使う
↓
声門閉鎖が強くなる
↓
声門下圧も高くなる
↓
大きな声になる
という運動パターンがあったとします。
ところが、
グリスダウンすると、
音高の変化に合わせて、
声帯の形状・張力・厚み・筋活動
などが連続的に変化します。
その結果、
「大きな声を維持する運動パターン」から離れやすくなる可能性があります。
そして、
小さい声に移行するための経路
が見つかる。
これは、前の記事で説明した
「動的な運動ならできるが、単音になると難しい」
という現象とも一致します。
13.TAとCTのバランスも考える
例えば高音で、
「地声をそのまま上に持っていこう」
とするとします。
その時、
TAの活動を含む厚い声帯状態を強く維持しながら、
CTによる伸展・緊張も必要になる可能性があります。
しかし、
TAとCTは単純な「どちらか一方」ではありません。
モデル研究でも、TAとCTの活動は声帯の長さ、厚み、接触面積、張力、閉鎖率などに複雑な影響を与えることが示されています。
そのため、
「高音だからTAを抜く」
という単純な指導ではなく、
高音に合わせて、どのような声帯形状・張力・接触状態を作っているか
を見る必要があります。
14.「地声が強い人」が高音で苦しくなりやすい理由
例えば、
低~中音域で、
厚い声帯+強い内転+高い声門下圧
を使っている人が、そのまま高音へ行こうとするとします。
音高が上がる
↓
声帯の伸展・張力が必要
↓
それでも地声の強さを維持しようとする
↓
TAを含む筋活動も強く維持
↓
声帯への負荷が増える
↓
さらに呼気圧を上げる
↓
声量が大きくなる
↓
高音が苦しくなる
という悪循環になる場合があります。
もちろん、実際には個人差があり、この流れを全員に当てはめることはできません。
15.改善の第一歩は「閉鎖を弱くする」ではない
僕なら、
「声帯閉鎖を弱くしましょう」
と最初から決めるより、
まず、
今どの要素が強すぎるのか?
を確認します。
例えば、
声帯の厚み
内転
接触時間
接触圧
声門下圧
呼気流量
声帯振動の振幅
声道の共鳴
TA・CTの協調
を仮説として分けます。
16.改善① 小さい声で同じ音高を出してみる
まず、
同じ音高で声量だけを変える
練習です。
例えば、
E4
↓
大
↓
中
↓
小
↓
中
↓
大
と変化させます。
ここで、
小さくしようとすると音高まで下がる
のであれば、
「音高と声量の独立操作」がまだ難しい可能性があります。
17.改善② グリスダウンを利用する
もし、
グリスダウンなら小さくできる
のであれば、それを利用します。
例えば、
大きめ
↓
グリスダウン
↓
徐々に小さく
↓
目的の音高で一瞬止める
という練習です。
そして、
止めた瞬間の小さい声を維持する時間
を少しずつ延ばします。
これは、
できない状態を直接繰り返す
のではなく、
すでにできている運動経路から、できない状態へ橋をかける
という考え方です。
18.改善③ 「声帯を閉じない」ではなく「必要以上に押しつけない」
声帯閉鎖そのものは、悪いものではありません。
声を出すためには、声帯の適切な内転・接触が必要です。
問題になるのは、
必要以上の圧着や過剰な声門下圧、過剰な衝突
などです。
したがって、
閉鎖をなくす
のではなく、
必要な閉鎖を保ちながら、過剰な力を減らす
ことを目指します。
19.改善④ 「大きい声=良い地声」という考えを外す
地声が強い人ほど、
「声が大きい=声がしっかりしている」
と感じる事があります。
しかし、
声の大きさと発声効率は同じではありません。
声を大きくする能力があっても、
小さな声に調整できないのであれば、
声量の自由度
という意味では改善の余地があります。
理想的なのは、
大きくもできる小さくもできる
状態です。
20.「強い声」より「可変性」を目指す
僕がボイトレで大切だと思っているのは、
強い声を作る事だけではありません。
例えば、
音高
低い↓高い
声量
小さい↓大きい
声質
軽い↓厚い
これらをある程度自由に組み合わせられる事です。
例えば、
高音+小さい声
もできる。
高音+大きい声
もできる。
低音+小さい声
もできる。
低音+大きい声
もできる。
こうした自由度が増えるほど、歌唱表現の幅も広がります。
21.「地声が強い」は悪い事ではない
最後に、ここは誤解しないでほしいと思います。
地声が強い事そのものが悪いわけではありません。
むしろ、
声量がある
声に芯がある
低~中音域が安定している
声の存在感がある
という長所になる場合もあります。
問題になるのは、
その声しか選べない状態
です。
例えば、
「強く出す事はできるけれど、小さくできない」
のであれば、
その人に必要なのは、
もっと強い声
ではなく、
声量を下げる選択肢
かもしれません。
22.まとめ|地声の強さを「閉鎖」だけで説明しない
「地声が強い=声帯閉鎖が強い」
と単純に考える事はできません。
地声の強さや声量には、
声帯の厚み+内転・接触+Closed Quotient+接触圧+声門下圧+呼気流量+TA・CTなどの喉頭筋群+声道の共鳴
など、多くの要素が関係しています。
特に覚えておきたいのは、
「声帯が閉じている」
「声帯が長く接触している」
「声帯が強い力で接触している」
「声門下圧が高い」
は、それぞれ別の概念だという事です。
そして、
「声が大きい」
という結果だけを見て、
「声帯閉鎖が強すぎる」
「息が多すぎる」
と一つの原因に決めつける事もできません。
だからこそボイトレでは、
なぜ声が大きくなるのか?
を、
声帯→ 声門→ 呼気→ 喉頭筋→ 声道→ 運動学習
まで分解して考える事が大切です。
そして最終的に目指したいのは、
強い声を出せる事ではなく、強い声から小さい声まで、自分で自由にコントロールできる事。
僕は、これが「声のコントロール能力」だと考えています。
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