喉を痛めない歌い方とは?声に負担をかけないために知っておきたい事

はじめに
声や歌については、文章で説明すると、
どうしても分かりにくくなってしまうことがあります。
僕自身も、ボイトレや声について新しい知識を学んだとき、「なるほど」と頭では分かっても、実際に声を出してみるとすぐにはできないことがたくさんありました。
だからこそ、この記事では難しい内容もできるだけ分かりやすくまとめています。
すべてを一度で理解する必要はありません。
「そういう考え方もあるんだな」「これ、自分にも当てはまるかも」
そんなふうに、皆さんのボイトレや歌の練習の何か一つのヒントになれば嬉しいです。
そして、文章を読んでも「自分の場合はどうなんだろう?」と思ったら、ぜひ体験レッスンで直接質問してください。
実際に声を出しながら、一緒に確認していきましょう。
結論|喉を痛めない歌い方に「絶対の1つの方法」はありません
「喉を痛めない歌い方を知りたい」
これは、ボイトレをしている方からもよく出てくる質問です。
ただ、最初に知っておきたいのは、
「この発声なら絶対に喉を痛めない」という方法はありません。
という事です。
声の負担には、
音の高さ
声の大きさ
歌う時間
声の出し方
声帯の状態
体調
睡眠
水分状態
風邪などの体調不良
周囲の騒音
休憩の取り方
など、さまざまな要素が関係します。
NIDCD(米国国立聴覚・コミュニケーション障害研究所)も、声の使い過ぎや大きな声での発声、声がかれている時の歌唱などを、声の問題につながる要因として挙げています。
そのため、
「喉を開ける」「腹式呼吸をする」「力を抜く」「もっと息を使う」
といった1つの方法だけで、すべてを説明するのは難しいと考えています。
大切なのは、
「今の自分の声に、どのような負担がかかっているのか?」
を観察する事です。
そもそも「喉を痛める」とは?
「喉が痛い」という言葉だけでは、何が起きているのか分かりません。
例えば、
喉が締まる感じがする
首周りが疲れる
声を出すのが重くなる
高音が出しにくくなる
歌った後に声がかれる
声が出しにくくなる
ヒリヒリする
声を出すと痛い
などがあります。
これらは、すべて同じ原因とは限りません。
例えば「高音で喉が締まる感じ」と「歌った後に声がかれる」は、本人にはどちらも「喉がつらい」と感じられても、考えるべき事が違う場合があります。
そのため、ボイトレでは、
「痛いか・痛くないか」だけではなく、どの場面で、どのように声が変化するのか
を見る事が大切です。
声はどうやって作られている?
声は、単純に「喉から出てくるもの」ではありません。
大まかに考えると、
肺から空気が出る↓声帯が振動する↓音のもとが作られる↓喉・口・鼻などの声道を通る↓声として聞こえる
という流れがあります。
声帯は喉頭(こうとう)の中にあり、肺から出てくる空気によって振動します。
そして、その振動によって生まれた音が声道の形によって変化し、私たちが聞く声になります。
つまり、
「喉だけを考えればいい」というわけではありません。
呼吸、声帯、喉頭周辺の筋肉、舌、口の形、声道などが関係しています。
「もっと息を使えば喉に優しい」は本当?
これは、かなりよくある考え方です。
しかし、
息を増やせば必ず喉への負担が減る
とは言えません。
歌では、肺から出る空気と声帯の働きが関係しています。
そのため、
「高音が出ない」↓「息が足りない」↓「もっと息を出そう」
と単純に考えると、かえって声を出すための努力が大きくなる場合があります。
特に、
高音=大量の息
と考えるのは注意が必要です。
高音では、声帯の振動状態や声門閉鎖、喉頭周辺の筋肉活動、声道の調整など、さまざまな要素が変化します。
だからこそ、
「息を増やす」よりも、「今の音で何が起きているのか」を確認する
ことが大切です。
「喉を開ける」だけでは解決しない理由
ボイトレでは、
「喉を開けて」「喉を広げて」
という言葉を聞く事があります。
もちろん、この感覚が役立つ人もいます。
ただし、
「喉を開ける=正しい発声」
と単純化する事はできません。
なぜなら、歌声は声帯だけで決まるわけではなく、声道の形や舌、口の形、音量、音高なども関係するからです。
また、「喉を開けよう」と意識しすぎることで、別の場所に力が入ってしまう人もいます。
そのため、
「喉を開ける」
という言葉そのものより、
その結果、声がどう変わったのか
を見ることが重要です。
「力を抜けば喉を痛めない」も単純ではありません
これもよく聞く表現です。
「力を抜いて歌いましょう」
というアドバイス自体は間違いとは言えません。
しかし、声を出すためには筋肉が働きます。
そのため、
「力を抜く=筋肉を使わない」
ではありません。
むしろ、
必要な働きは残しながら、必要以上の努力を減らしていく
という考え方のほうが実際の発声には近い場合があります。
例えば、
高音だけ急に力が入る
大きな声になると首が固まる
特定の母音だけ苦しくなる
音程を取ろうとすると力む
声を出す瞬間だけ強く押してしまう
などです。
この場合、
「力を抜いて」
だけでは、本人が何を変えればいいのか分かりません。
喉に負担がかかりやすい5つのパターン
① 声がかれているのに歌い続ける
これは注意したいポイントです。
NIDCDは、声がかれている、疲れている時には話したり歌ったりすることを避けるよう勧めています。
「少しかすれているだけだから大丈夫」
と考えて練習を続けるのではなく、
今日は声を休ませる必要があるのか?
を考えることも大切です。
② 大きな声を出そうとして押してしまう
「もっと大きく!」
と思った時に、
息を一気に増やす
声帯を強く閉じる
首や喉周りを固める
声を押し出す
という方法になってしまう人がいます。
しかし、
声量を上げる=全部を強くする
ではありません。
声の大きさには、声帯の働き、呼気圧、声道との相互作用など、複数の要素が関係します。
そのため、単純に「もっと力を入れる」だけではありません。
③ 高音になると急に頑張る
高音になると、
「出さなければ」
という意識が強くなり、
声を押す
顎が固まる
首に力が入る
息を大量に出す
音量まで上げてしまう
という事があります。
しかし、
高い音=大きな声
ではありません。
まず小さめの音量で高音を扱えるかを見ることも、声の状態を観察する方法の一つです。
「出せるか」だけではなく、
「無理なく繰り返し扱えるか」
を見ることも重要です。
④ 疲れている日に無理をする
声は身体から独立して存在しているわけではありません。
睡眠不足などで身体全体が疲れている場合、いつもと同じように声を出そうとしても、感覚や発声の努力が変わることがあります。
NIDCDも、十分な休息を取ることや、身体的な疲労が声に悪影響を与える可能性を説明しています。
そのため、
「昨日はできたから今日もできるはず」
ではなく、
今日の声の状態を確認する
ことが大切です。
⑤ 周囲がうるさい場所で声を張る
カラオケやライブなどでは、周囲の音が大きくなることがあります。
すると、
「自分の声が聞こえない」↓「もっと大きな声を出そう」↓「さらに声を張る」
という状態になりやすくなります。
NIDCDも、騒音の中で声を出すことは声への負担につながるため、必要に応じてマイクを使うなどの対策を挙げています。
これは歌だけでなく、日常会話でも同じです。
「喉を痛めないため」に確認したい7つのポイント
歌っていて苦しくなった時は、次の項目を確認してみてください。
① どの音域で苦しくなる?
低音なのか、高音なのか。
特定の音だけなのか。
② どのくらいの音量で苦しくなる?
小さい声なら問題ないのか。
大きな声にすると苦しくなるのか。
③ どの母音で苦しくなる?
「あ」では歌えるけれど、
「い」になると苦しい。
というような違いがないか確認します。
④ 上がる時と下がる時で違いはある?
同じ音でも、
下からグリスダウンしてきた時と、
その音を最初から狙った時で、
声の出しやすさが違うことがあります。
こうした違いも、発声を考えるためのヒントになります。
⑤ 歌った後に声がどうなる?
例えば、
声がかすれる
高音が出にくくなる
声量が落ちる
声が重くなる
話し声まで変化する
などです。
単に「歌っている時は大丈夫」だけではなく、
歌った後にどうなるか
も確認してみましょう。
⑥ 休むと戻る?
少し休むことで元に戻るのか。
それとも、休んでも声の変化が続くのか。
これも重要な観察材料です。
⑦ 自分の声を録音して聞いてみる
歌っている本人は、身体の感覚に意識が向いているため、実際に聞こえている声を正確に判断しにくいことがあります。
そこで、
録音して自分の声を後から聞く
方法があります。
例えば、
「苦しかった部分」「楽だった部分」
を録音して比較してみます。
ただし、スマートフォンのマイクや部屋の響きによって聞こえ方は変わるため、録音は「完全に客観的な測定」ではありません。
それでも、
自分の感覚と実際に聞こえる声を比較する材料
としては役立ちます。
「喉に優しい発声」と「喉を使わない発声」は違う
ここも誤解されやすい部分です。
歌う以上、声帯は振動します。
つまり、
「喉を使わない歌い方」
という表現を、そのまま文字通り受け取る必要はありません。
重要なのは、
必要な発声機能を使いながら、過剰な負担を減らしていく
という考え方です。
声帯を使わずに歌うことはできません。
だからこそ、
「喉を使わない」
よりも、
「喉周辺に必要以上の負担をかけない」
という考え方のほうが現実的です。
ハミングやSOVTEなら絶対に安全?
例えば、
ハミング
リップトリル
ストロー発声
その他のSOVTE(半閉鎖声道エクササイズ)
などは、ボイトレや音声治療で使われています。
これらには研究がありますが、
「誰がやっても必ず喉を痛めない」
という意味ではありません。
SOVTEは声帯と声道の相互作用を利用する考え方で、発声のしやすさなどに関する研究があります。
一方で、研究対象や方法、練習条件によって結果は異なります。
そのため、
「ハミング=絶対に安全」
と決めつけるのではなく、
「自分の声ではどう変化するか」
を確認することが大切です。
SOVTEに関する系統的レビューでも、効果は検討されていますが、すべての人・すべての状況で同じ効果が保証されているわけではありません。
喉を痛めないためには「練習量」も考える
発声方法だけでなく、
どのくらい声を使ったのか
も考える必要があります。
例えば、
30分の練習では問題ないけれど、
2時間続けると声が疲れる。
という人もいます。
この場合、
「発声方法が間違っている」
とすぐに決める必要はありません。
練習時間、休憩、音域、音量、曲の難易度などを分けて考える必要があります。
声の健康教育についての研究でも、歌手を対象とした研究はありますが、研究数やサンプルサイズには限界があり、「これだけやれば絶対に声を守れる」という単純な結論にはできません。
「喉を痛めない=楽な声」だけではない
ボイトレをしていると、
「楽に出せました!」
という感覚は、とても重要です。
ただし、
楽に感じる=必ず声に負担がない
とも限りません。
逆に、
「少し筋肉を使っている感じがある=悪い」
とも限りません。
声を出すには筋肉が必要だからです。
そこで僕は、
感覚だけではなく、声の変化も一緒に見る
ことをおすすめしています。
例えば、
音程
音量
声質
高音への移行
声の安定
歌った後の変化
翌日の声
などです。
「出せる」と「無理なく使える」は違う
これは、歌の練習で大切にしたい考え方です。
一度だけ高い音が出た。
大きな声が一度出た。
難しい曲を最後まで歌えた。
これだけでは、
「その発声を安定して使える」
とは限りません。
例えば、
「1回だけ出る」
から、
「何回やっても大きく崩れない」
へ。
さらに、
「曲の中でも無理なく使える」
へ。
この違いがあります。
ボイトレでは、
瞬間的に出せる声を作るだけではなく、繰り返し扱える声を目指す
という視点も大切だと僕は考えています。
内田のボイトレでは「喉を痛めない方法」を1つに決めません
僕自身、ボイトレでは、
「この方法をやれば全員大丈夫」
という考え方はしていません。
同じ高音の悩みでも、
声量を上げると苦しくなる人
小さい声でも苦しい人
高音だけ苦しい人
特定の母音で苦しい人
歌い始めは大丈夫だけど後半で苦しくなる人
前日まで問題なかったのに今日は苦しい人
など、状態はさまざまです。
だから、
「喉を開けましょう」「もっと息を使いましょう」「力を抜きましょう」
だけで終わらせず、
「どの条件で声が変わるのか?」
を一緒に確認していきます。
僕が特に大切にしているのは、
「高い声が出るか」だけではなく、「その声を無理なく扱えるか」
という視点です。
こんな場合はボイトレだけで判断しない
歌っている時の違和感には、発声だけでは説明できないものもあります。
例えば、
声のかれが長く続く
声を出すと痛い
急に声が出なくなった
高音が急に出なくなった
話し声まで明らかに変わった
飲み込みに問題がある
呼吸が苦しい
などの場合は、自己判断でボイトレを続けるのではなく、耳鼻咽喉科などの医療機関に相談することをおすすめします。
NIDCDも、3週間以上続く嗄声(声のかれ)や、発声・嚥下時の痛み、呼吸困難、急な失声などでは医療機関への相談を勧めています。
ボイトレは声の使い方を学ぶ場所であり、病気の診断や治療を行う場所ではありません。
まとめ|喉を痛めないために大切な事
喉を痛めない歌い方を考える時、
「正しい発声を1つ覚える」
だけでは十分ではありません。
大切なのは、
声がかれている時は無理をしない
声を使いすぎない
高音=大きな声と考えない
息を増やせば解決すると考えない
「喉を開ける」だけで解決しようとしない
必要以上の力が入っていないか確認する
練習時間や休憩も考える
自分の声を録音して確認する
「一度出る」より「繰り返し扱える」を見る
痛みや長引く声の変化があれば医療機関に相談する
という事です。
そして、
「喉を痛めない歌い方」ではなく、「自分の声がどの条件で負担を感じるのかを知る」
という視点を持つことも大切だと思います。
声は一人ひとり違います。
だからこそ、誰かにとってうまくいった方法が、自分にもそのまま当てはまるとは限りません。
自分の声を観察しながら、
出せる声から、無理なく扱える声へ。
少しずつ確認していくことが、ボイトレでは大切だと僕は考えています。
内田のボイトレ体験レッスン
「自分の場合、何が原因で喉が苦しくなるのか分からない」
「高音になると力が入ってしまう」
「歌った後に声が疲れる」
そんな方は、実際に声を出しながら一緒に確認してみてください。
文章だけでは分かりにくい部分も、声を出してみると見えてくることがあります。
内田のボイトレでは、一人ひとりの声の状態を確認しながら、無理なく声を扱う方法を一緒に考えていきます。
参考文献
National Institute on Deafness and Other Communication Disorders (NIDCD). Taking Care of Your Voice.
National Institute on Deafness and Other Communication Disorders (NIDCD). Hoarseness.
Saeedi S, et al. The Vocal Hygiene Treatment Programs for Singers: A Systematic Review. Journal of Voice. 2026;40(2):376–385. DOI: 10.1016/j.jvoice.2023.10.028. PMID: 38052688.
Vermeulen R, du Toit M, van Lierde K, van der Linde J. The Effect of Vocal Hygiene Education Programs on Voice Quality in Professional Voice Users: A Systematic Review. Journal of Speech, Language, and Hearing Research. DOI: 10.1044/2022_JSLHR-22-00097. PMID: 36351245.


