カラオケでは歌えるのにアカペラでは歌えないのはなぜ?音程がズレる原因と練習方法

はじめに
声や歌については、文章で説明すると、
どうしても分かりにくくなってしまうことがあります。
僕自身も、ボイトレや声について新しい知識を学んだとき、「なるほど」と頭では分かっても、実際に声を出してみるとすぐにはできないことがたくさんありました。
だからこそ、この記事では難しい内容もできるだけ分かりやすくまとめています。
すべてを一度で理解する必要はありません。
「そういう考え方もあるんだな」「これ、自分にも当てはまるかも」
そんなふうに、皆さんのボイトレや歌の練習の何か一つのヒントになれば嬉しいです。
そして、文章を読んでも「自分の場合はどうなんだろう?」と思ったら、ぜひ体験レッスンで直接質問してください。
実際に声を出しながら、一緒に確認していきましょう。
結論|カラオケでは歌えるのに、アカペラでは歌えないのはなぜ?
「カラオケなら歌えるのに、アカペラになると音程が分からなくなる」
「伴奏があると歌えるけれど、伴奏を消すと音程が不安定になる」
このような経験をしたことがある方もいると思います。
これは、単純に「音痴だから」という一言では説明できません。
歌の音程を合わせるためには、
目標となる音を聴く
自分が出している声を聴く
目標と自分の声の違いを判断する
声を調整する
といった複数の働きが関係しています。
つまり、歌の音程は**「耳だけ」の問題でも、「声だけ」の問題でもありません。**
聴くことと、声を動かすことを連携させることが必要になります。
なぜカラオケでは歌えるのに、アカペラでは難しくなるの?
カラオケには、歌っているメロディー以外にもさまざまな音があります。
ピアノやギターなどの伴奏、ベース、リズムなどです。
こうした音があることで、
「今、自分は曲のどの位置にいるのか」
「次の音は上がるのか、下がるのか」
「今歌っている音は、伴奏と比べてどうなのか」
といった判断をしやすくなる場合があります。
一方、アカペラでは、外部から得られる音楽的な情報が少なくなります。
そのため、
自分が覚えているメロディーや、自分の声を聴いた情報などを利用して、音程を調整する必要性が大きくなります。
実際に、歌唱では自分の声などから得られる聴覚的なフィードバックが音程のコントロールに関係することが研究されています。
そもそも「音程」と「F0」とは?
ここで、少しだけ専門的な話をします。
歌の音程を理解するためには、**F0(基本周波数)**という言葉を知っておくと便利です。
F0とは、声帯が振動する速さに関係する数値
声を出すとき、声帯は振動しています。
その振動の速さを表す基本的な指標の一つが、**F0(基本周波数)**です。
簡単に言えば、
声帯の振動が速くなると、基本的には高い音になり、振動が遅くなると低い音になります。
例えば、
「もっと高い音を出したい」
というときには、声帯の振動状態が変化し、より高い周波数の音として出ていきます。
反対に、
「もっと低い音を出したい」
ときには、より低い周波数の音になります。
つまり、F0は、
「声の高さを考えるときに関係する、声帯振動の基本的な指標」
と考えると分かりやすいでしょう。
ただし、
「F0=音程そのもの」ではありません。
また、歌の音程が合うかどうかは、F0だけで決まるわけでもありません。
声帯の働き、発声の仕方、聴覚から得られる情報、声を調整する運動など、さまざまな要素が関係します。
歌唱研究では、実際にF0を測定して、歌った音と目標音との差から音程の正確さを評価する方法が使われています。
「音程を取る」とは、どういうこと?
例えば、ピアノで「この音を歌ってください」と音を出したとします。
すると、
① 音を聴く
↓
② このくらいの高さだと判断する
↓
③ 声を出す
↓
④ 自分の声を聴く
↓
⑤ 目標の音と比べる
↓
⑥ 必要なら声を調整する
という流れが起こります。
実際の歌では、このような調整が一度だけではなく、歌っている間にも続いていきます。
そのため、
「音を聴き分ける能力」だけでなく、「その音を声として作り、必要に応じて修正する能力」も関係します。
研究でも、歌唱には聴覚的な情報と発声運動の連携が関係していることが示されています。
① 最初の音がズレる
アカペラで歌うとき、
「最初の一音からズレてしまう」
というケースがあります。
この場合、
「歌っている途中の音程が悪い」
というより、
歌い始める前の音の準備
を確認したほうがよい場合があります。
例えば、
「この音を歌う」
という目標を耳で確認してから声を出す。
それだけでも、自分の課題が見えやすくなることがあります。
② 最初は合っているのに、だんだんズレる
最初の音は合っている。
ところが、歌っているうちに少しずつ高くなったり、低くなったりする。
この場合は、
一つの音を当てる能力だけではなく、歌っている間に音程を維持・調整する能力
を見る必要があります。
「最初の音は合っているのに、なぜ最後にはズレているのか?」
という視点で確認すると、練習方法を考えやすくなります。
③ カラオケでは合うのに、アカペラになるとズレる
この場合、
「音程が分からない人」
と決めつける必要はありません。
むしろ、
伴奏から得られる情報を利用することで、音程を安定させることができている
可能性があります。
研究では、外部からの聴覚フィードバックの条件が変化すると、歌唱の音程精度にも変化が見られることが報告されています。
ただし、興味深いことに、ある研究では外部から聞こえる自分の声を弱めた条件で、訓練を受けていない歌い手の音程がむしろ改善する結果も得られています。
そのため、
「伴奏が聞こえるほど必ず音程が良くなる」
という単純な話ではありません。
外から聞こえる音だけでなく、自分の中で作られた音の感覚や予測なども関係していると考えられています。
④ 高い音だけアカペラで不安定になる
「低い音は大丈夫なのに、高音になると音程が不安定になる」
というケースもあります。
この場合は、音程だけを見るのではなく、発声そのものも確認する必要があります。
例えば高音になると、
声が急に大きくなる
喉や首に力が入りやすい
声の切り替わりが難しくなる
音を当てようとして声を押してしまう
などが起こることがあります。
すると、
「音程を取ろうとしているのに、発声そのものが不安定になる」
ことも考えられます。
そのため、高音の音程が不安定な場合は、単純に「音程練習を増やす」だけではなく、高音をどのような発声で出しているのかを見ることも大切です。
⑤ 自分の声を録音して、あとから客観的に聴いてみる
音程練習では、自分の声を録音して聴くことも一つの方法です。
歌っている最中は、
「今の音は合っている」
と思っていても、録音をあとから聴いてみると、
「思っていたより低い」
「この部分だけ音が上がっている」
「最初は合っているけれど、後半でズレている」
など、新しく気づくことがあります。
これは、歌っている最中と、あとから録音を聴くときでは、自分の声を確認する条件が違うからです。
歌っている最中は、
歌うこと+自分の声を聴くこと+次の音を考えること
を同時に行っています。
一方、録音をあとから聴く場合は、
歌う作業から離れて、自分の歌を聴くことに集中できます。
そのため、自分の歌い方を振り返る材料になります。
録音するときは「上手い・下手」ではなく、具体的に聴く
録音を聴くときに、
「なんか下手だな」
だけで終わってしまうと、練習につながりにくくなります。
例えば、次のように確認してみてください。
① 最初の音は合っている?
歌い始めの音が目標に近いか。
② 途中でズレていない?
最初は合っていても、途中から音程が変化していないか。
③ 特定の音だけズレていない?
高音や低音、特定のフレーズだけ不安定になっていないか。
④ 音が上ずっていない?
歌っているうちに、少しずつ音が高くなっていないか。
⑤ 音が下がっていない?
特に長く伸ばす音などで、音の高さが下がっていないか。
こうして聴くことで、
「音程が悪い」
という大きな問題を、
「どこで、どのようにズレているのか」
という具体的な課題に変えることができます。
録音は「客観的」だけれど、完全に客観的ではありません
ここも少し注意が必要です。
録音を聴けば、
「自分の歌を完全に客観評価できる」
というわけではありません。
録音機器やマイク、部屋の響き、音量などによって、聞こえ方は変わります。
また、自分の声を録音で聴くこと自体に違和感を持つ人もいます。
したがって、
「録音を聴けば必ず正確な評価ができる」
とは言えません。
それでも、歌っている瞬間の感覚だけでは気づきにくい部分を、あとから振り返るための材料として利用することには意味があります。
「カラオケでは歌える」は、練習のヒントになります
「カラオケでは歌えるけれど、アカペラでは歌えない」
という場合、
「カラオケに頼っているからダメだ」
と考える必要はありません。
むしろ、
「カラオケでは何があるから歌いやすいのか?」
を考えてみると、自分の課題が分かりやすくなります。
例えば、
伴奏があるから音の高さを確認しやすい
曲の流れを予測しやすい
自分の声と伴奏を比較できる
リズムがあるので歌い出しやすい
など、さまざまな可能性があります。
アカペラ練習は、いきなり全部を一人で歌わなくてもいい
「アカペラが苦手だから、最初から伴奏なしで練習する」
必要はありません。
例えば、
ステップ1
ピアノなどで最初の音を確認する。
↓
ステップ2
短いフレーズを歌う。
↓
ステップ3
録音して聴いてみる。
↓
ステップ4
ズレた場所を確認する。
↓
ステップ5
もう一度歌ってみる。
↓
ステップ6
少しずつ伴奏への依存を減らしてみる。
という方法があります。
このように、
「できる条件」から始めて、少しずつ条件を変えていく
という考え方もできます。
歌唱研究でも、テンポ、音域、発音方法、外部からの聴覚フィードバックなどによって音程の正確さが変化することが報告されています。
【事実】研究から分かっていること
歌唱では、基本周波数(F0)の正確なコントロールが重要です。
また、自分の声などから得られる聴覚的フィードバックは、歌唱時の音程調整に関係しています。
さらに、歌唱の正確さには、音を聴く能力だけでなく、聴覚と発声運動を連携させる能力も関係すると考えられています。
ただし、これらの研究から、
「録音して聴けば音程が必ず改善する」
とまでは言えません。
録音はあくまで、自分の歌を振り返るための一つの方法として考えるのが適切です。
【内田のボイトレとしての考え方】
僕は、音程がズレたときに、
「音痴だから」
と最初から決めつけないようにしています。
それよりも、
「どこからズレたのか?」
「最初からズレているのか?」
「途中からズレるのか?」
「高音だけなのか?」
「カラオケなら安定するのか?」
「録音して聴くと、本人の感覚と実際の声に違いがあるのか?」
などを確認します。
「音程が悪い」という結果だけを見るのではなく、
どの条件で、どのようにズレるのか
を見ることが大切だと考えています。
そして、録音を使う場合も、
「上手い・下手」
という評価だけではなく、
「自分の声を聴いて、次に何を変えるのか」
を考えるために使ってほしいと思っています。
音程練習で確認したい6つのポイント
最後に、練習するときに確認したいポイントをまとめます。
① 歌う前に目標の音を聴いていますか?
まず音を確認してから歌ってみます。
② 最初の音は合っていますか?
歌い始めからズレているのか確認します。
③ 歌っている途中でズレていませんか?
最初は合っているのに途中からズレる場合もあります。
④ 高音や特定の音だけズレていませんか?
音域や発声方法によって変化する場合があります。
⑤ カラオケとアカペラで何が変わりますか?
伴奏の有無による違いを確認してみます。
⑥ 自分の声を録音して聴いていますか?
歌っているときの感覚と、あとから聴いたときの印象を比べてみます。
まとめ|「アカペラで歌えない=音痴」と決めつけなくていい
カラオケでは歌えるのに、アカペラになると音程が取れない。
この現象は、
「耳が悪い」
「音痴だから」
という一言だけでは説明できません。
歌の音程には、
目標音を聴く
自分の声を聴く
目標と自分の声を比較する
声を調整する
これまでの経験から音を予測する
といった複数の働きが関係しています。
また、声帯の振動の速さに関係するF0も、歌の音の高さを考えるうえで重要な指標です。
そして、自分の声を録音してあとから聴くことで、
「自分では合っていると思っていたけれど、実際には少し低かった」
「最初は合っているけれど、最後に下がっている」
といった発見ができる場合があります。
だからこそ、
「自分は音痴だ」と決めつけるより、「自分はどの条件で、どのように音程がズレるのか」を確認してみる。
これが、練習方法を考えるための一つの出発点になると思います。
内田のボイトレ
「カラオケでは歌えるけれど、アカペラになると音程が不安定になる」
「自分では合っていると思うのに、録音を聴くと違って聞こえる」
「高音になると音程が取りにくい」
そんな場合は、実際に声を出しながら、
どこで・どのように音程が変化しているのか
を一緒に確認していくことができます。
文章だけでは分かりにくい部分もありますので、気になることがあれば体験レッスンで
直接ご質問ください。
参考文献
Bottalico P, Graetzer S, Hunter EJ. Effect of Training and Level of External Auditory Feedback on the Singing Voice: Pitch Inaccuracy. Journal of Voice. 2017;31(1):122.e9–122.e16. DOI: 10.1016/j.jvoice.2016.01.012.
Ternström S, et al. Significance of auditory and kinesthetic feedback to singers' pitch control. Journal of Voice. 2002. PMID: 12002886.
Watts C, Murphy J, Barnes-Burroughs K. Pitch matching accuracy of trained singers, untrained subjects with talented singing voices, and untrained subjects with nontalented singing voices in conditions of varying feedback. Journal of Voice. 2003. DOI: 10.1016/S0892-1997(03)00023-7.
Pfordresher PQ, Halpern AR. Auditory-motor mapping for pitch control in singers and nonsingers. Cognitive Processing. 2008.
Pfordresher PQ, Mantell JT. Singing with yourself: evidence for an inverse modeling account of poor-pitch singing. Cognitive Psychology. 2014. DOI: 10.1016/j.cogpsych.2013.12.005.


