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「できていない」を自覚させる。でも、追い詰めない。|ボイトレに必要なフィードバックの考え方

執筆者の写真: 内田のボイトレ
内田のボイトレ
10月9日
読了時間: 13分

はじめに

声や歌については、文章で説明すると、

どうしても分かりにくくなってしまうことがあります。

僕自身も、ボイトレや声について新しい知識を学んだとき、「なるほど」と頭では分かっても、実際に声を出してみるとすぐにはできないことがたくさんありました。

だからこそ、この記事では難しい内容もできるだけ分かりやすくまとめています。

すべてを一度で理解する必要はありません。

「そういう考え方もあるんだな」「これ、自分にも当てはまるかも」

そんなふうに、皆さんのボイトレや歌の練習の何か一つのヒントになれば嬉しいです。

そして、文章を読んでも「自分の場合はどうなんだろう?」と思ったら、ぜひ体験レッスンで直接質問してください。

実際に声を出しながら、一緒に確認していきましょう。

「もっと高音を出せるようになりたい」

「声を安定させたい」

「歌が上手くなりたい」

ボイトレに来る方には、それぞれの目標があります。

そのため、レッスンでは、

「ここはできています」

「ここはまだ改善の余地があります」

というフィードバックが必要になります。

でも、ここで大切なのが、

「できていないことを伝える」ことと、「できていない自分を責めさせる」ことは、まったく違う

ということです。

僕は、ボイトレではこの違いを大切にしています。

「できていない」を自覚することは大切

まず前提として、

できていないことを自覚すること自体は、悪いことではありません。

むしろ、上達するためには必要な場合があります。

例えば、高音を歌ったとします。

先生から聞くと、

  • 音程が少し低い

  • 声が不安定

  • 音量が急に大きくなる

  • 声質が変化する

  • 特定の母音で歌いにくくなる

  • 身体に必要以上の力が入っているように見える

など、いくつもの特徴が見えるかもしれません。

しかし、本人にはその違いが分からない場合があります。

これは、

「練習する気がない」

「才能がない」

という話とは限りません。

単純に、

まだ自分の感覚と、実際に出ている声を正確に結びつけられていない

可能性があります。

つまり、

「できていない」のではなく、

「何が起きているのかを、まだ正確に認識できていない」

という場合もあるわけです。

ボイトレでは「今どうなっているか」を知る必要がある

歌唱には、さまざまな要素が関係します。

例えば、

  • 呼吸

  • 声帯振動

  • 喉頭周辺の調整

  • 声道の形

  • 舌や顎、唇の動き

  • 音程

  • 音量

  • 音色

  • タイミング

  • 音楽的な表現

などです。

これらが複雑に関係しながら、一つの「歌声」になります。

そのため、

「とにかく何回も歌えば上手くなる」

とは限りません。

何を変えればよいのか分からないまま練習を繰り返すと、同じ方法を繰り返してしまう場合もあります。

そこで重要になるのが、フィードバックです。

簡単に言えば、

今の自分のパフォーマンスについて、次の学習に役立つ情報を得ること

です。

教育研究における代表的なレビューでは、フィードバックは学習に大きな影響を持つ一方、その効果は「どのような内容を」「どのように」伝えるかによって変わると整理されています。

つまり、

「フィードバックをする」だけでは十分ではありません。

何を伝えるのかが重要です。

「できていないよ」だけでは、次の行動が分からない

例えば、

「高音、できてないですね」

と言われたとします。

もちろん、現在の状態を伝えるという意味では間違いではありません。

でも、生徒さんからすると、

「じゃあ、何を変えればいいんだろう?」

となるかもしれません。

場合によっては、

「もっと頑張らないと」

「自分は歌が下手なんだ」

と考えてしまう可能性もあります。

一方で、

「今は目標の音程より少し低くなっています」

「この母音になると音程が下がりやすいです」

「前のテイクより、今回は安定しています」

「もう一度歌って、自分ではどこが違ったと思うか確認してみましょう」

という伝え方なら、

次に何を試せばいいのか

が見えやすくなります。

ここが大きな違いです。

「評価」と「情報」は分けて考える

レッスンでは、もちろん評価も必要です。

ただ、

「できていない」

「ダメ」

「もっと頑張って」

という言葉だけでは、改善のための情報が少なくなってしまいます。

例えば、

評価だけの場合

「高音がまだできていません」

情報を加えた場合

「この音域で音程が少し下がっています。特にこの母音で起こりやすいので、まずそこを確認してみましょう」

この2つでは、次の練習につながる情報量が違います。

フィードバックは、単純に「褒める」「注意する」という話ではありません。

学習者が次の試行をどう変えるかにつながる情報を渡す

という視点が重要だと僕は考えています。

僕が大切にしているのは「自分で気づく」こと

ここからは、研究結果そのものではなく、内田のボイトレとしての指導上の提案です。

僕は、可能な場合には、生徒さん自身に考えてもらう時間を作るようにしています。

例えば、

「今の高音、前と何が違ったと思いますか?」

「今のほうが楽でしたか?」

「音程はどうだったと思いますか?」

「声の響きはどう変わりましたか?」

「さっきと比べて、何が変わったと思いますか?」

といった質問です。

これは、先生が答えを全部教えるのではなく、

生徒さん自身が自分の声を観察する

ための時間です。

もちろん、最初からすべて自分で分かる必要はありません。

分からなければ、先生がヒントを出します。

必要なら、録音や音程などを一緒に確認します。

そして、少しずつ、

「自分で気づける部分」

を増やしていきます。

「できたと思ったのに、実際には違った」

ボイトレでは、こういう経験も大切だと思っています。

例えば、

「今、できたと思います」

↓

録音を聴く

↓

「思っていたより音程が低かった」

ということがあります。

逆に、

「今は失敗したと思います」

↓

録音を確認する

↓

「思ったよりできている」

ということもあります。

このような経験を繰り返すと、

自分が感じている声と、実際に出ている声との違い

について考えるきっかけになります。

ただし、

「録音して自分で確認すれば、必ず歌唱力が向上する」

とまでは言えません。

また、この考え方を一般的なボイトレにそのまま適用できる強い研究証拠が十分にある、と断定することもできません。

ここは、運動学習などの研究から考えられる教育上の仮説・指導上の提案として捉えるのが適切だと思います。

最終的には「先生に言われたから直す」から卒業したい

僕がボイトレで目指したいのは、

「先生に言われたから直す」

だけではありません。

例えば、

「今、少し音程が下がったな」

「この母音だと声質が変わりやすいな」

「今のほうが高音が楽だったな」

「この方法だと声が安定したな」

というように、

自分で変化を観察して、次の試行を調整できること

が大切だと考えています。

なぜなら、先生がいつも隣にいるわけではないからです。

レッスン以外では、自分で練習する時間があります。

その時間に、

「今の練習はどうだったんだろう?」

と考えられることは、長期的な練習において重要になります。

「教えすぎない」ことも大切

これは、

「先生が何も教えない」

という意味ではありません。

むしろ、先生には、

  • 何を見るのか

  • 何を比較するのか

  • どこを修正するのか

  • 何を試すのか

  • どのように確認するのか

を整理する役割があると思っています。

そのうえで、

生徒さん自身が考える余地を残す。

このバランスが大切です。

運動学習の研究では、学習者がフィードバックを受けるタイミングなどに関与する「self-controlled feedback(自己調整型フィードバック)」についても研究されています。

2025年のメタ分析では、29研究・1,147人を対象として検討され、練習直後の成績では一貫した優位性が示されなかった一方、保持や転移については有利な結果が報告されています。

ただし、研究間には違いがあります。

そして、これは歌唱そのものを対象とした研究ではありません。

そのため、

「歌のレッスンでも自己調整型フィードバックが必ず最善」

とは言えません。

ただ、学習者が受け身になるのではなく、練習に主体的に関わる方法を考えるうえでは参考になる研究だと思います。

「追い詰めない」は「甘やかす」ことではない

ここは誤解されやすいところです。

僕は、

「生徒さんを傷つけないために、できていなくても褒めましょう」

と言いたいわけではありません。

むしろ、

できていないものは、できていないと正確に伝える。

これは必要だと思っています。

ただし、

「できていない」

↓

「だからダメ」

という結びつけ方は別の話です。

例えば、

「今の高音は、まだ目標としている状態には届いていません」

ここまでは、現在のパフォーマンスについての評価です。

そこから、

「でも、前回よりここは改善しています」

「次はこの部分だけ変えてみましょう」

「もう一度試して、違いを確認してみましょう」

と続ける。

そうすると、

現状の確認と、次の課題

を分けて考えられます。

「できていない自分」と「できていない技術」を分ける

個人的には、ここもレッスンで大切にしたい部分です。

例えば、

「あなたは高音が苦手」

と言われると、

「自分自身が否定された」

と感じる人もいるかもしれません。

一方、

「今の発声では、この音域で音程が安定しにくい」

という伝え方なら、

問題を「その人自身」ではなく、

現在のパフォーマンスや技術

として扱いやすくなります。

もちろん、同じ言葉でも受け取り方には個人差があります。

それでも指導者側として、

人格や才能の評価と、現在のパフォーマンスの評価を混同しない

ことは大切だと思っています。

レッスンでは「自分で考えられる環境」も大切

教育心理学の分野では、Self-Determination Theory(自己決定理論)という考え方があります。

これは、学習者の自律性・有能感・関係性など、人が主体的に学ぶための心理的な要素を扱う理論です。

教育場面を対象とした研究では、自律性や有能感などを支援するような教育的介入や、教師による支援的な行動が、学習者の望ましい結果と関連することが報告されています。

ただし、これらは教育全般を対象とした研究です。

ボイトレに限定した研究結果ではありません。

そのため、

「自己決定理論に基づけば、必ず歌が上手くなる」

という話ではありません。

僕自身は、

「先生の言う通りにする」

だけではなく、

「自分でも考えてみる」

「自分の声を観察してみる」

という環境を作るための考え方として参考にしています。

内田のボイトレで大切にしたい「3段階」

ここまでの話を、実際のレッスンに落とし込むなら、僕は次の3段階が分かりやすいと思っています。

① 気づく

「今の声、前と何が違ったと思いますか?」

まず、自分自身で考えてみる。

↓

② 確認する

録音・音程・声質・身体感覚などを使って、

「実際にはどうだったのか?」

を確認する。

↓

③ 試す

「では、次は何を変えてみましょう?」

と、次の試行につなげる。

つまり、

気づく → 確認する → 試す

です。

そして、また歌ってみる。

このサイクルを繰り返します。

レッスンで使える声かけ

例えば、

一方的な指摘になりやすい言葉

「できてない」

「違う」

「もっと頑張って」

「なんでできないの?」

「前も言ったよね」

こうした言葉だけでは、次に何をすればよいのかが分かりにくい場合があります。

もちろん、状況によっては短い指示が必要な場面もあります。

大切なのは、これだけで終わらせないことです。

次の行動につなげる声かけ

「今の声と目標の声の違いは、どこだと思いますか?」

「今、自分ではどう感じましたか?」

「一回録音して確認してみましょう。」

「前回と比べると、ここは改善しています。」

「今はこの部分だけに集中してみましょう。」

「さっきより何が変わりましたか?」

「次は一つだけ条件を変えてみましょう。」

このように、

評価 → 次の学習

へつなげていくことができます。

「できていないこと」を見せる勇気も必要

指導者側が、

「傷つけたくない」

という気持ちから、問題点を曖昧にしてしまうこともあります。

しかし、それも学習の妨げになる可能性があります。

例えば、音程が明らかにずれているのに、

「いい感じです!」

だけで終わってしまえば、

本人が「できている」と認識してしまう可能性があります。

だからこそ、

正確なフィードバックは必要です。

ただし、

「できていないことを伝える」

ことと、

「できていないことを責める」

ことは違います。

指導者には、この線引きが必要なのだと思います。

ボイトレは「正解を当てるゲーム」ではない

発声には、

「この感覚なら全員にとって正解」

という単純な答えが存在するとは限りません。

声は、

  • 音域

  • 音量

  • 音色

  • 母音

  • 子音

  • 音楽的表現

  • 個人差

  • 身体的条件

  • 技術レベル

などによって変化します。

そのため、

「全員が同じ感覚になること」

を目標にするより、

自分の声を観察し、状況に応じて調整できる能力を育てる

という考え方も大切だと僕は考えています。

もちろん、これも「特定の発声法がすべての人に最適だと科学的に証明されている」という意味ではありません。

あくまで、

内田のボイトレとしての指導方針・提案

です。

「できていない」を終点にしない

レッスンで、

「できていない」

ということが分かった。

ここで終わってしまうのではなく、

「では、何を変えれば改善する可能性があるのか?」

を考えることが重要です。

だから僕は、

「できていない」を自覚させる。

でも、

「できていないことで追い詰めない」。

この両方が必要だと考えています。

そして、理想を言えば、

「先生に言われて、初めて気づく」

状態から、

「自分で気づける」

状態へ。

さらに、

「気づいたら、自分で修正を試せる」

状態へ。

少しずつ進んでいければいいと思っています。

まとめ

ボイトレでは、できていない部分を正確に知ることが必要です。

しかし、

「できていない」=「自分はダメ」

ではありません。

大切なのは、

「今の声はどうなっているのか?」

「目標と何が違うのか?」

「何を変えればよさそうなのか?」

を考えられることです。

フィードバックについての研究からも、フィードバックは単純に「多ければ多いほど良い」というものではなく、その内容や与え方が重要だと考えられています。

また、自己調整型フィードバックなど、学習者自身が学習過程に関わる方法についても研究が進んでいます。

ただし、これらの研究結果を、そのまま歌唱やボイトレに当てはめることはできません。

だからこそ、僕自身は研究を参考にしながらも、

実際に声を出す → 観察する → 確認する → 試す

という流れを大切にしています。

そして、最終的に目指したいのは、

先生がいなくても、自分の声をある程度観察して、自分で練習方法を考えられるようになること。

そのためにレッスンがあるのだと思っています。

「できていない」を隠す必要はありません。

でも、「できていない自分」を責める必要もありません。

できていない事が分かったら、そこから次の一歩を考える。

それが、ボイトレにおけるフィードバックの一つの形だと、僕は考えています。

参考文献

Hattie, J., & Timperley, H. (2007).The Power of Feedback. Review of Educational Research, 77(1), 81–112.DOI: 10.3102/003465430298487

Wang, B., Tao, T., Yuan, Y., & Guo, W. (2025).Self-Controlled Feedback and Behavioral Outcomes in Motor Skill Learning: A Meta-Analysis. Behavioral Sciences, 15(9), 1291.

Wang, Y., Wang, H., Wind, S. A., & Gill, C. (2024).A systematic review and meta-analysis of self-determination-theory-based interventions in the education context. Learning and Motivation, 87, 102015.DOI: 10.1016/j.lmot.2024.102015

Howard, J. L., Slemp, G. R., & Wang, X.Need Support and Need Thwarting: A Meta-Analysis of Autonomy, Competence, and Relatedness Supportive and Thwarting Behaviors in Student Populations. Personality and Social Psychology Bulletin.

 
 

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