M1・M2とは?地声と裏声の違いを声帯の仕組みから初心者向けに解説

はじめに
声や歌については、文章で説明すると、
どうしても分かりにくくなってしまうことがあります。
僕自身も、ボイトレや声について新しい知識を学んだとき、「なるほど」と頭では分かっても、実際に声を出してみるとすぐにはできないことがたくさんありました。
だからこそ、この記事では難しい内容もできるだけ分かりやすくまとめています。
すべてを一度で理解する必要はありません。
「そういう考え方もあるんだな」「これ、自分にも当てはまるかも」
そんなふうに、皆さんのボイトレや歌の練習の何か一つのヒントになれば嬉しいです。
そして、文章を読んでも「自分の場合はどうなんだろう?」と思ったら、ぜひ体験レッスンで直接質問してください。
実際に声を出しながら、一緒に確認していきましょう。
M1・M2とは?
ボイトレや歌について調べていると、
「M1」「M2」「M1からM2へ切り替える」
という言葉を見かける事があります。
簡単に説明すると、
M1・M2は、声帯がどのような振動の仕方をしているかを分類するための「喉頭振動メカニズム」の名称です。
ここでいう「喉頭(こうとう)」とは、簡単にいうと、声帯がある首の中の器官です。
研究では、人間の発声に関係する喉頭の振動メカニズムとして、M0・M1・M2・M3という分類が使われています。
その中でも歌のボイトレで特に話題になりやすいのが、M1とM2です。
Roubeauらは、声帯の電気的な振動を測定するEGG(電気声門図)などを使い、M1・M2を含む喉頭振動メカニズムと、その移行について研究しています。
M1=地声、M2=裏声?
ここは、ボイトレで混乱しやすい部分です。
一般的な説明では、
M1=地声
M2=裏声
と説明される事があります。
ただし、この説明を完全にイコールで結んでしまうのは正確ではありません。
より正確には、
M1・M2は「地声・裏声」という日本語の感覚的な分類ではなく、声帯の振動状態を研究上分類したもの
と考えるほうが分かりやすいです。
たとえば、
「地声」という言葉は、日常のボイトレでは非常に広い意味で使われています。
「胸声」「地声」「チェストボイス」「ミドル」「ミックス」「裏声」「ファルセット」
など、指導者や分野によって意味が違う場合があります。
そのため、
地声=必ずM1裏声=必ずM2
と決めてしまうと、実際の声の仕組みをかえって単純化してしまいます。
M1では声帯がどのように振動する?
M1では、M2と比較して、声帯の振動に参加する部分や声門の接触状態などに違いがあります。
非常に簡単にイメージすると、
M1では、声帯が比較的しっかり振動・接触する状態になりやすい
と考える事ができます。
ただし、
「M1=強い声」
という意味ではありません。
M1でも小さな声は出せますし、大きな声を出す事もできます。
つまり、
M1・M2と声量は同じ分類ではありません。
声量には、声帯の接触状態だけではなく、呼気圧、声門の状態、声道の働きなど、複数の要素が関係します。
M2では何が変わる?
M2では、M1とは異なる声帯の振動状態になります。
研究では、M2はM1と比較して声門の接触時間などに違いが見られます。
Henrichらの研究では、M1とM2で声門開放率(open quotient)に違いが見られ、M2ではM1より高い値を示す傾向が報告されています。
また、歌唱研究では、同じ音程・同じ母音でも、M1とM2では声帯の接触状態や声道の共鳴特性が変化する事が確認されています。
そのため、
「裏声にすると、単純に声帯が弱く振動している」
と考えるよりも、
声帯の振動の仕組みそのものが変化している
と考えたほうが理解しやすいでしょう。
M1とM2は「声の高さ」で完全に分かれるわけではない
ここも非常に大切なポイントです。
「この音より上はM2」「この音より下はM1」
というように、すべての人に共通する固定された境界があるわけではありません。
歌手によっても違いますし、声の出し方によっても変わります。
実際に、研究ではM1とM2の両方を使える音域が存在する事が確認されています。
つまり、
同じくらいの音の高さでも、M1・M2の異なるメカニズムで歌える場合がある
という事です。
これは「地声か裏声か」の二択だけで考えると分かりにくい部分です。
高い声になるとM1・M2はどうなる?
音程を上げていくと、声帯の振動数も変化します。
F0(基本周波数)は、声帯が1秒間に何回程度振動しているかに関係する物理的な値です。
一般的には、F0が高くなると、私たちはより高い音として聞きます。
しかし、高音になると単純に、
「声帯を速く振動させればいい」
というわけではありません。
声帯の長さ、張力、振動に参加する部分、声門の接触状態など、さまざまな要素が変化します。
M1からM2への移行では、こうした声帯の振動状態の変化が関係します。
Roubeauらの研究では、M1からM2など、異なるメカニズムへの移行時に、周波数の変化やEGG信号の振幅・波形の変化などが観察されています。
「声がひっくり返る」のはM1からM2?
歌っていると、
「急に声が裏返った」
という経験をする方もいます。
この現象には、M1とM2の切り替わりが関係する場合があります。
M1で歌っている状態から、音程が上がっていく中で、声帯の振動メカニズムが急に変化すると、
声の音色が急に変わる
声量が変わる
息っぽくなる
声が不安定になる
「ひっくり返った」と感じる
といった現象につながる場合があります。
ただし、
「声がひっくり返った=必ずM1からM2になった」
と断定する事はできません。
声帯の閉鎖、呼気、音量、母音、声道の形、喉頭周辺の筋活動など、さまざまな要素が関係する可能性があります。
実際の歌唱では、声帯だけでなく声道との相互作用も関係します。
「M1をM2に切り替えれば高音が出る」という単純な話ではない
ボイトレでは、
「高音になったら裏声にする」「M1からM2へ切り替える」
という説明を聞く事があります。
しかし、これだけでは十分ではありません。
なぜなら、
高音を出す事と、M1・M2の分類は同じ問題ではないからです。
たとえば、
「M2になれば高音が楽になる」
とも限りません。
M2でも、
息が多すぎる
声が不安定
音量が出しにくい
声が薄く感じる
音程が安定しない
といった事は起こります。
反対に、M1でも音域や声の条件によっては高い音を出せる場合があります。
そのため、
「M1かM2か」だけで、歌が上手くなる・高音が出るという結果を判断する事はできません。
ミックスボイスは「M1とM2を50%ずつ混ぜる」?
これもよく聞く説明です。
しかし、
「ミックスボイス=M1が50%、M2が50%」
というような単純な考え方は、研究上のM1・M2の分類をそのまま表しているわけではありません。
「ミックス」という言葉自体も、ボイトレの世界では指導者によって意味が異なります。
ある人は、
「地声と裏声の中間」
という意味で使います。
別の人は、
「高音でも地声のような響きを保つ発声」
という意味で使う事があります。
そのため、ボイトレで「ミックス」という言葉を聞いたときは、
「その人はミックスを何と定義しているのか?」
を確認する事が大切です。
M1・M2と「声の強さ」は別の話
「M2だから弱い」「M1だから強い」
という考え方も注意が必要です。
声の強さや聞こえ方は、
声帯の振動
声門の閉じ方
呼気の状態
声道の形
共鳴
音の周波数成分
など、複数の要素によって変化します。
M1とM2では声門の接触状態などに違いがありますが、それだけで「強い声・弱い声」を決める事はできません。
だから、
「裏声を強くしたい」
という悩みがあったとしても、
「M2を強くする」
という一言だけでは、何を改善すべきなのかは分かりません。
ボイトレでは「M1かM2か」だけを見ない
僕がレッスンで大切だと考えているのは、
「その声がM1なのかM2なのかを当てる事」だけではありません。
例えば、
どの音域で変化するのか
音量を変えるとどうなるのか
母音を変えるとどうなるのか
上行するとどうなるのか
下行するとどうなるのか
グリスダウンするとどうなるのか
同じ音を単発で出したときと、流れの中で出したときでどう違うのか
声が疲れてくるとどう変わるのか
などを見ていきます。
同じ「高音が苦手」という悩みでも、実際の声の動きは人によって違います。
グリスダウンで声が出しやすくなる場合
例えば、
「高い音を単発で出そうとすると苦しい」
けれど、
「高い音から低い音へグリスダウンすると、比較的小さな声にできる」
というケースがあります。
このような場合、
単純に「高音が出ない」と考えるだけでは、その人の発声状態を十分に説明できない可能性があります。
音の高さだけではなく、
音程がどの方向に動いているのか声を出す直前にどのような状態だったのか音量をどう変化させたのか
などによって、声の出しやすさが変わる事があります。
これは、M1・M2という分類だけではなく、声の運動制御そのものを見る必要がある理由の一つです。
「M1からM2に切り替える事」が目的ではない
M1・M2という言葉を知ると、
「自分はM1だからダメなのかな?」
「M2にすれば高音が出るのかな?」
と思ってしまうかもしれません。
でも、必ずしもそうではありません。
M1・M2は、声帯の振動メカニズムを理解するための非常に便利な考え方です。
一方で、実際のボイトレでは、
その人がどのような声を、どのような条件で、どのくらい無理なく繰り返し使えるのか
を見る必要があります。
「出た」という結果だけではなく、
「どういう状態で出たのか」
を見る事が大切です。
内田のボイトレでは、M1・M2をどう考える?
内田のボイトレでは、M1・M2を「地声と裏声を覚えるための単純な分類」としてだけではなく、
声帯の振動がどのように変化しているのかを考えるための一つの視点
として捉えています。
高音を練習するときも、
「この音からM2にすればいい」
と固定して考えるのではなく、
音程
音量
母音
声の出し始め
上行・下行
声の疲れ
声の安定性
などを合わせて確認します。
高音は、「出れば成功」というだけではありません。
繰り返し使えるか無理なく調整できるか音程や音色をコントロールできるか
という部分も大切だと考えています。
まとめ
M1・M2について、まず覚えておきたい事をまとめます。
M1・M2は喉頭の振動メカニズムの分類
M1=地声、M2=裏声と完全にイコールではない
M1とM2では声帯の振動・接触状態などに違いがある
M1とM2には重なる音域が存在する
全員に共通する固定された「M1→M2の境界」があるわけではない
「声がひっくり返る=必ずM1からM2」とは限らない
ミックスボイスを「M1とM2を50%ずつ混ぜる」と考えるのは単純化しすぎている
M1・M2だけで声の強さや高音の出しやすさを判断する事はできない
実際のボイトレでは、音程・音量・母音・声の動きなどを合わせて考える事が大切
M1・M2を知ると、「地声と裏声」という言葉だけでは説明しにくかった声の変化を、もう少し細かく考えられるようになります。
ただし、専門用語を覚える事そのものがボイトレの目的ではありません。
自分の声がどのような条件で変化しているのかを知るための一つの道具
として使うと、ボイトレにも役立てやすいと思います。
参考文献
Roubeau B, Henrich N, Castellengo M.Laryngeal Vibratory Mechanisms. The Notion of Vocal Register Revisited.Journal of Voice. 2009;23(4):425–438.DOI: 10.1016/j.jvoice.2007.10.014PMID: 18538982
Henrich N, d'Alessandro C, Doval B, Castellengo M.Glottal open quotient in singing: measurements and correlation with laryngeal mechanisms, vocal intensity, and fundamental frequency.Journal of the Acoustical Society of America. 2005;117(3):1417–1430.DOI: 10.1121/1.1850031PMID: 15807029
Henrich Bernardoni N, Smith J, Wolfe J.Vocal tract resonances in singing: variation with laryngeal mechanism for male operatic singers in chest and falsetto registers.Journal of the Acoustical Society of America. 2014;135(1):491–501.DOI: 10.1121/1.4836255PMID: 24437789
Roubeauらの研究ではM1・M2を含む喉頭振動メカニズムを、Henrichらの研究ではM1・M2と声門開放率などの関係を調べています。
最後に
M1・M2について文章だけでは分かりにくい部分もあると思います。
「自分の地声と裏声は、実際にはどういう状態なんだろう?」
「高音で声がひっくり返るのは、自分の場合は何が起きているんだろう?」
そんな疑問があれば、実際に声を出しながら一緒に確認していきましょう。
内田のボイトレでは、単純に「地声」「裏声」と決めつけるのではなく、その人の声の変化を確認しながら考えていきます。


