自分の歌声を録音すると何が分かる?|上達につなげる聴き方と練習方法

はじめに
声や歌については、文章で説明すると、どうしても分かりにくくなってしまうことがあります。僕自身も、ボイストレーニングや声について新しい知識を学んだとき、理解に時間がかかりました。この記事が、ボイトレをする上でのひとつのヒントになればと思います。詳しくは内田のボイトレ体験レッスンで、直接ご質問ください。
自分の歌声を録音する意味とは?
歌の練習をするとき、自分の声を録音して聴き返した事はありますか?
スマートフォンがあれば、特別な機材を用意しなくても、自分の歌声を録音できます。
録音する目的は、単に自分の声を聴く事だけではありません。
自分がどのように歌っているのかを確認し、次の練習で何を改善するのかを見つける事が大切です。
歌っている最中には、音程やリズム、歌詞、息の使い方など、さまざまな事に意識を向けています。そのため、自分の声を細かく聴きながら歌うのは、簡単ではありません。
録音すれば、歌う事からいったん離れて、声を聴く事に集中できます。
ただし、録音しただけで自動的に課題が分かるわけではありません。何を確認するのかを決めて聴く事が、練習を上達につなげるポイントです。
内田のボイトレで大切にしている考え方
歌っている最中は、自分の声を客観的に聴けていない場合がある
歌っている最中は、歌唱そのものに集中していて、自分の声を客観的に捉えられていない場合があります。
これは、僕自身にも当てはまります。
自分では意識して歌っているつもりでも、録音を聴き返すと、想像していた声と違って聴こえたり、気づいていなかった課題が見つかったりする事があります。
例えば、歌っている最中には音程が合っていると思っていても、録音を聴くと音の入り方やフレーズの終わり方が気になる場合があります。
反対に、歌っているときには気になっていた部分が、録音ではそれほど問題に感じられない場合もあります。
このように、歌っているときの感覚と、録音を聴いたときの印象が必ずしも一致するとは限りません。
もちろん、録音で聴こえる声だけが唯一の正解というわけでもありません。録音環境やマイクとの距離、部屋の響きなどによっても、声の聴こえ方は変わります。
大切なのは、歌っているときの感覚だけで判断せず、録音から得られる情報も活用する事です。
耳は、少しずつ育てていくもの
自分の歌声を録音しても、最初から細かな課題を見つけられるとは限りません。
音程がずれているのか、声の響きが変化しているのか、リズムが前後しているのか。こうした違いを聴き分けるには、知識や経験が役立ちます。
僕は、自分の声を聴き分ける耳も、少しずつ育てていくものだと考えています。
最初は何となく聴いて終わっていた録音でも、確認するポイントを決めて繰り返し聴く事で、以前は気づかなかった違いに意識が向くようになる場合があります。
例えば、最初は音程だけを確認し、次はリズム、その次は声の響きというように、聴くポイントを分けてみます。
一度にすべてを判断しようとする必要はありません。
また、自分の耳だけで判断するのが難しい場合は、ピアノやチューナーなどの補助ツールを使ったり、信頼できる指導者に聴いてもらったりする方法もあります。
録音を聴き返す練習は、単に自分の声を確認するだけでなく、自分の歌声をより細かく聴き分けるための練習にもなります。
ただし、聴き分ける力がどの程度の速さで伸びるかには個人差があります。録音を続ければ必ずすべての課題を自力で判断できるようになる、という意味ではありません。
録音で大切なのは「どこに課題を感じて聴くか」
録音を聴くときに、僕が大切だと考えているのは、どこに課題を感じて聴くかという点です。
何も意識せずに録音を聴いていると、「上手く歌えた」「何となく違和感がある」といった感想だけで終わってしまう場合があります。
それでも自分の歌声を知るきっかけにはなりますが、次の練習につなげるには、もう少し具体的に考えてみる事をおすすめします。
例えば、次のように確認します。
サビの高音で、音程が不安定になっていないか?
フレーズの終わりで、声が弱くなったり音程が変わったりしていないか?
リズムが伴奏より早くなったり、遅くなったりしていないか?
歌詞の発音が不明瞭になっていないか?
特定の音だけ、声の響きや聴こえ方が大きく変わっていないか?
ここで大切なのは、最初からすべてを確認しようとしない事です。
まずは、自分が気になっている課題を一つ決めて聴いてみましょう。
例えば、高音が苦手だと感じているなら、曲全体の上手さを評価するのではなく、高音に入る直前から高音を歌い終えるまでを重点的に聴きます。
音程が気になるなら、声の大きさや声質についてはいったん判断を保留し、音程に集中します。
このように、聴く目的を明確にすると、録音から何を得たいのかが分かりやすくなります。
録音で確認したい5つのポイント
1.音程
まず確認したいのが、音程です。
自分では正しく歌っているつもりでも、目標の音より高くなったり低くなったりしている場合があります。
特に、次のような部分を確認してみましょう。
高音に入る瞬間
音程が大きく変化する部分
長く伸ばす音
フレーズの最後
音程のずれが自分では分かりにくい場合は、原曲や伴奏と比較したり、ピアノなどで目標の音を確認したりすると、判断の助けになります。
ただし、原曲と自分の録音を比較する場合は、キーやテンポ、伴奏の条件が違っていないかにも注意しましょう。
2.リズムとタイミング
次に、リズムを確認します。
歌詞の入りが伴奏より早くなっていないか、反対に遅れていないかを聴いてみましょう。
また、音符の長さを十分に保てているか、フレーズの終わりを早く切り上げていないかも確認できます。
リズムは、歌っている最中に歌詞や音程へ集中していると、細かいずれに気づきにくい場合があります。
録音を聴くときは、歌詞を追うだけでなく、伴奏と歌声のタイミングにも意識を向けてみてください。
3.声の響きや発声の変化
声の響きや発声の聴こえ方も、録音で確認できるポイントです。
例えば、低音から高音に移るときに声の印象が急に変わる、特定の音だけ声がかすれて聴こえる、フレーズによって声の響きが大きく変わるといった点です。
ただし、録音だけで声帯の動きや喉の中の状態を直接確認できるわけではありません。
録音から分かるのは、あくまで記録された声の音響的な特徴です。声の聴こえ方に変化があったとしても、その原因が一つに決まるとは限りません。
気になる変化がある場合は、録音を手がかりにしながら、発声時の感覚や実際の歌い方も合わせて確認するとよいでしょう。
4.歌詞の発音とフレーズのつながり
歌詞が聴き取りやすいかどうかも、確認しておきたいポイントです。
歌っている最中は、歌詞を間違えないようにする事に意識が向き、発音の明瞭さまで気が回らない場合があります。
録音を聴きながら、言葉がはっきり聴こえるか、母音の響きが不自然に変化していないか、音と音のつながりが途切れていないかを確認してみましょう。
ただし、すべての音をはっきり区切ればよいというわけではありません。曲調や歌い方によっては、言葉を自然につなげる事も大切です。
どのような表現を目指しているのかを考えながら聴いてみてください。
5.自分が感じていた歌いやすさとの違い
最後に、歌っている最中の感覚と録音の印象を比べてみましょう。
歌っているときには楽に歌えたと感じた部分が、録音では不安定に聴こえる事があります。
反対に、歌っているときには難しく感じた部分でも、録音では思っていたほど問題がない場合もあります。
この違いを知る事は、次の練習内容を考えるうえで役立ちます。
ただし、録音の印象だけで「楽に歌えたから正しい」「違和感があるから間違い」と決めつける必要はありません。
聴こえ方と身体の感覚を照らし合わせながら、どの部分を確認すべきかを探していきましょう。
録音を上達につなげる練習方法
録音を効果的に活用するために、次の手順を試してみてください。
手順1.録音する前に課題を一つ決める
最初に、今回何を確認するのかを決めます。
例えば、「高音の音程を確認する」「サビのリズムを確認する」「フレーズの最後まで安定して歌えるか確認する」といった目標です。
課題が決まっていない場合は、まず一度録音して全体を聴き、気になった部分を一つ選ぶ方法でも構いません。
手順2.できるだけ同じ条件で録音する
スマートフォンなどを使い、同じ場所、同じ程度の音量、同じようなマイクとの距離で録音します。
条件をそろえると、練習前後の録音を比較しやすくなります。
録音環境が大きく違うと、実際の歌い方が変わっていなくても、音量や響きの違いが目立つ場合があります。
最初から高価な機材を用意する必要はありません。まずは、比較しやすい条件で録音する事を意識しましょう。
手順3.一度目は全体、二度目は課題に集中して聴く
一度目は、曲全体を通して聴いてみます。
そして、気になる部分があれば、二度目はその課題に集中します。
例えば、最初にサビの高音が気になったなら、その部分を繰り返し聴きます。必要に応じて、気になる箇所の前後も含めて確認しましょう。
一度の録音ですべてを判断しようとする必要はありません。
手順4.気づいた事を一つだけ練習する
録音を聴いて課題が見つかったら、次の練習ではその課題に取り組みます。
例えば、音程が不安定だと感じたなら、該当するフレーズを短く区切って練習します。
練習後にもう一度録音し、最初の録音と比較してみましょう。
ここで、すぐに改善しなかったからといって、練習に意味がなかったと判断する必要はありません。課題を見つけられた事自体も、今後の練習に活かせる情報です。
手順5.録音を残して、時間を空けて比較する
練習の記録を残しておくと、以前の自分の歌声と比較できます。
例えば、次のようなメモを簡単に残しておきます。
録音した日
確認した課題
気づいた事
次に練習する事
数日後や数週間後に聴き直すと、録音した当日には気づかなかった変化が分かる場合もあります。
ただし、録音条件や体調、曲への慣れなどによっても歌声は変わります。一回の録音だけで上達したかどうかを決めず、複数回の記録を参考にしましょう。
録音するときに気をつけたい事
録音された声が、自分の声のすべてではない
自分が普段聴いている声と、録音された声は同じようには感じられない場合があります。
自分の声は、空気を通して耳に届く音だけでなく、身体の内部を伝わる振動などの影響も受けるためです。また、マイクや録音環境によっても音の印象が変わります。
そのため、録音を聴いて「自分の声はこんな声ではない」と感じても、それだけで録音が間違っているとは限りません。
録音は、自分の声を確認するための一つの手段として活用しましょう。
声の良し悪しを一度で判断しない
一回の録音だけで、自分の歌唱力や声の良し悪しを決める必要はありません。
その日の体調や疲労、練習量、録音環境などによって、歌声の印象は変化します。
また、録音を聴いたときの好みと、音程やリズムなどの技術的な評価は、必ずしも同じではありません。
「自分の声が好きかどうか」だけではなく、「今回設定した課題を確認できたか」という視点を持つと、練習に活かしやすくなります。
録音だけでは分からない事もある
録音では、声の音程やタイミング、響きの変化などを確認できます。
一方で、声帯がどのように動いているか、喉の内部で何が起きているか、筋肉がどのように働いているかを、通常の音声録音だけで直接確認する事はできません。
録音は便利な方法ですが、すべての原因を特定できるものではありません。
自分だけでは課題の原因が分からない場合は、録音を指導者に聴いてもらい、実際の発声や身体の感覚も含めて確認すると、次に取り組むべき事を整理しやすくなります。
まとめ|録音は、自分の課題を見つけるために活用する
自分の歌声を録音すると、音程やリズム、声の響き、歌詞の発音など、歌っている最中には気づきにくかった点を確認できる場合があります。
内田のボイトレでは、歌っているときの感覚だけで判断せず、録音を活用して自分の歌声を客観的に捉える事も大切だと考えています。
僕自身も、歌唱に集中していると、自分の声を十分に客観視できていない場合があります。
そして、自分の声を細かく聴き分ける耳は、最初から完成しているものではなく、知識や経験を通じて少しずつ育てていくものだと考えています。
録音で大切なのは、ただ聴く事ではなく、どこに課題を感じて聴くかです。
最初からすべての問題を見つける必要はありません。
まずは一つ、気になる課題を決めて録音を聴き返してみてください。その小さな気づきを次の練習につなげる事が、歌声を見直すきっかけになります。
参考資料
Singing Voice Science:https://www.singingvoicescience.com/
Voice Science:https://www.voicescience.org/learn/articles/
The effects of musical feedback training on metacognition and self-directed learning(音楽のフィードバック練習とメタ認知・自己主導型学習に関する研究):https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10764022/
※研究は録音を含むフィードバックや振り返りの活用を考える際の参考資料です。録音を繰り返すだけで、すべての人の歌唱力が必ず向上する事を直接保証するものではありません。本文中の内田のボイトレとしての考え方は、研究結果そのものではなく、指導上の経験や実践的な提案として記載しています。


