ストロー発声とは?|やり方・効果・ミックスボイスとの関係を科学的に解説

はじめに
声や歌については、文章で説明すると、どうしても分かりにくくなってしまうことがあります。僕自身も、ボイストレーニングや声について新しい知識を学んだとき、理解に時間がかかりました。この記事が、ボイトレをする上でのひとつのヒントになればと思います。詳しくは内田のボイトレ体験レッスンで、直接ご質問ください。
ストロー発声とは?
ストロー発声とは、ストローをくわえ、ストローを通して声を出す発声練習です。
ボイストレーニングや音声治療の分野では、ストロー発声は「半閉鎖声道エクササイズ」と呼ばれる練習の一種として扱われます。英語ではSemi-Occluded Vocal Tract Exercisesと表記され、SOVTと略されます。
ストロー発声の特徴は、口から外へ出る空気の通り道を狭くする事です。
通常の発声では、口を開けて声を出します。一方、ストロー発声では、細いストローを通して声を出すため、声道の出口に抵抗が生まれます。
この変化によって、声道内の圧力や空気の流れ、声帯と声道の音響的な相互作用が変化します。
こうした性質を利用し、発声の感覚を確認したり、声を出すときの調整を練習したりするのが、ストロー発声です。
ただし、ストロー発声は万能な方法ではありません。ストローを使えば必ず高音が出るようになる、ミックスボイスが身につく、喉の力みが解消するといった効果が保証されているわけではありません。
大切なのは、ストロー発声の仕組みを理解し、自分の発声に合わせて活用する事です。
1. ストロー発声はなぜボイトレで使われるのか?
ストロー発声の仕組みを理解するために、まずは通常の発声について考えてみましょう。
声を出すとき、肺から送り出された空気は気管を通り、喉頭へと向かいます。発声時には、左右の声帯が適切に近づき、空気の流れと声帯組織の働きによって振動します。
この振動によって音のもとが生まれ、その音が声道を通る事で、私たちが聞く声になります。
ここで関係するのが、声帯と声道の相互作用です。
声帯で生まれた音は、声道の形や音響的な条件の影響を受けます。反対に、声道側の条件も、声帯振動に関係する空気の圧力などに影響します。
ストローをくわえて発声すると、口の出口が狭くなるため、通常とは異なる条件が生まれます。
Titzeによる2006年の研究では、唇側を半閉鎖する発声について、声道内の圧力や声帯との相互作用が変化する仕組みが検討されています。
このような物理的な仕組みが、ストロー発声を発声練習に利用する理論的な背景のひとつです。
ただし、研究で説明されている仕組みと、実際に歌う人が感じる変化は、同じものではありません。ストロー発声を行ったときに、誰もが同じ感覚や結果を得られるわけではない点には注意が必要です。
2. 叫ぶように発声してしまう方に、ストロー発声をおすすめする理由
内田のボイトレで、ストロー発声を活用したいと考えているケースのひとつが、声を出すときに力が入りすぎてしまう方です。
例えば、次のような悩みはありませんか?
高音になると、叫ぶような発声になってしまう
音量を上げようとすると、喉に力が入る
声を強く押し出すように歌ってしまう
音をひとつずつ強く当てるように発声してしまう
音をなめらかにつなぐ事が難しい
このような方に対して、ストロー発声は発声を見直すための練習として活用できます。
内田自身の経験則
僕自身のレッスンでの経験では、叫ぶように発声してしまう方に、ストロー発声を試してもらう事には価値があると考えています。
ストローを使うと、口から外へ出る空気の通り道が狭くなり、普段とは異なる発声条件が生まれます。
その条件を利用する事で、いつもの歌い方をそのまま繰り返すのではなく、声の出し方を見直すきっかけにできるからです。
例えば、普段の発声では高音を出そうとするたびに声を強く押し出してしまう方でも、ストロー発声を通じて、音量や息の使い方、声のつなぎ方を意識する練習ができます。
ただし、ストローを使うだけで、必ず力みが取れるわけではありません。ストローをくわえたままでも、強く息を押し出したり、必要以上に力を入れたりする事はできます。
また、叫ぶような声が出る原因は人によって異なります。声の高さや音量の調整、声区、母音、発声の癖など、複数の要因が関係する可能性があります。
そのため、ストロー発声を万能な解決策として考えるのではなく、発声を調整するための選択肢のひとつとして活用する事が大切です。
3. ストロー発声をすれば、必ずミックスボイスができるわけではない
ストロー発声は、ミックスボイスを目指す人の練習に取り入れられる事があります。
しかし、ストロー発声を続ければ、誰でも必ずミックスボイスができるようになるというわけではありません。
ミックスボイスという言葉は、ボイストレーニングの指導法によって意味や説明の仕方が異なる事があります。そのため、ひとつの決まった声帯の状態だけを指す言葉として扱うのは難しい面があります。
一般にミックスボイスと呼ばれる歌声を考えるときには、声帯の振動様式、声区の移行、音量、声道の調整など、複数の要素を考える必要があります。
ストロー発声は、こうした発声の調整を練習するための手段のひとつです。
例えば、ストローを使っているときには、比較的なめらかに音の高さを変えられたとしても、ストローを外して歌うと、再び喉に力が入ってしまう事があります。
これは、ストローを使っているときと、通常の歌唱とでは、声道の条件などが異なるためです。
また、ストロー発声ができる事と、歌の中で必要な音域や音量を安定して使える事も同じではありません。
そのため、ストロー発声で声が出せたという結果だけで、ミックスボイスが習得できたと判断する事はできません。
大切なのは、ストローを使った練習で得られた感覚や発声の変化を、ストローを外した状態でも再現できるかを確認する事です。
さらに、実際の歌のフレーズで使えるかどうかも確認する必要があります。
4. ストロー発声では、声の打点を少なくしてレガートを意識する
内田がストロー発声で意識してほしいと考えているポイントのひとつが、声の打点を少なくし、レガートを意識して発声する事です。
ここでいう「声の打点」とは、音を出すたびに強く当てたり、音の頭を強調したりするような発声上の感覚を指しています。音楽的なアクセントをすべてなくすという意味ではありません。
レガートとは、音と音をなめらかにつなぐ歌唱表現の事です。
例えば、音をひとつずつ強く押し出すのではなく、声の流れをできるだけ途切れさせずに、次の音へつないでいくイメージです。
なぜレガートを意識するのか?
高音を出そうとすると、音の頭で強く声を当てたり、音が変わるたびに発声をやり直したりする癖が出る人がいます。
そのような場合、音を出すたびに力を入れるのではなく、一定の流れの中で声をつないでいく練習が、発声を見直すきっかけになる可能性があります。
ストロー発声では、まず出しやすい高さで一定の声を出し、その声をなめらかに維持する事から始めます。
慣れてきたら、音の高さをゆっくり変化させながら、音が途切れたり、急に大きくなったり、強く押し出す感覚が出たりしないかを確認します。
実践するときのイメージ
例えば、低めの音から少しずつ高くし、再び低く戻す練習を行います。
このとき、音の高さを変えるたびに声を強く当てるのではなく、ひとつの声の流れの中で音程を変えていくイメージを持ちます。
ただし、レガートを意識すれば、必ず正しい発声になるわけではありません。音のつなぎ方が不自然になったり、必要以上に息を流し続けたりする場合もあります。
また、音楽的な表現として、意図的に音の頭を強調する事が適切な場面もあります。
ここでの目的は、すべての音を同じように歌う事ではありません。発声の練習段階で、必要以上に声をぶつける癖を減らし、なめらかに声をつなぐ選択肢を増やす事です。
なお、声の打点を少なくするという考え方は、内田自身の指導上の経験に基づく助言です。すべての人に共通する科学的なルールとして断定するものではありません。
5. ストロー発声の基本的なやり方
初めて行う場合は、次の手順を参考にしてください。
ステップ1:ストローを準備する
まずは一般的なストローを用意します。
ストローの太さや長さによって、空気の流れや発声時の抵抗は変わります。最初から細いストローを選んだり、強い抵抗を作ったりする必要はありません。
また、通常のストローを空気中で使う方法と、ストローを水に入れて発声する方法では、抵抗の条件が異なります。この記事では、主に空気中で行うストロー発声を扱います。
ステップ2:ストローを軽くくわえる
ストローを唇で軽くくわえます。
歯で強く噛んだり、口周辺に余計な力を入れたりする必要はありません。ストローの周囲から空気が大きく漏れないようにしながら、自然にくわえます。
ステップ3:無理のない音量で声を出す
まずは出しやすい音の高さで、「ウー」と声を出してみましょう。
大きな声を出す必要はありません。息を強く押し出すのではなく、無理なく声が続く条件を探します。
声を出すときに、喉や首に強い力が入っていないかも確認します。ただし、感覚だけで声帯の状態を正確に判断できるわけではないため、力が入っていないように感じる事だけを目標にする必要はありません。
ステップ4:一定の声から、音の高さを変えてみる
一定の高さで声を出せるようになったら、音の高さをゆっくり上下させてみます。
最初から大きく音域を広げる必要はありません。無理なく出せる範囲で、声がなめらかにつながるかを確認します。
このとき、音が変わるたびに強く声を当てるのではなく、できるだけレガートを意識します。
高音で苦しくなったり、声が急に強くなったりする場合は、音域を狭めてください。
ステップ5:ストローを外して声を確認する
ストロー発声の後に、ストローを外して短いフレーズを歌ってみましょう。
確認したいのは、次のような点です。
声を出すときの力みが変化したか
音をなめらかにつなぎやすくなったか
高音で叫ぶような発声になっていないか
声の大きさが必要以上に変化していないか
ストローを外した後も、無理なく声を出せるか
ストローを使っているときだけでなく、外した後の発声まで確認する事が大切です。
ストローを外した直後に声が出しやすく感じられても、それだけで長期的な改善が起きたと判断する事はできません。練習の目的に合った変化が、実際の歌唱でも再現できるかを確認しましょう。
6. 軟口蓋と鼻への空気の流れにも注意する
ストロー発声を考える際には、ストローだけでなく、口や鼻を含めた声道全体の状態にも目を向ける必要があります。
内田がレッスンで確認したいと考えている点のひとつが、軟口蓋の位置や、鼻側への空気の流れです。
軟口蓋は、口の奥にある柔らかい部分です。口腔と鼻腔の間の通路を調整する働きに関係しています。
発声時には、口から空気が出るのか、鼻側にも空気が流れるのかといった条件が、音の響きや発声に影響します。
鼻側に空気が流れると、ストロー発声の効果は変わる?
ストロー発声では、口の出口をストローによって狭める事が特徴です。
一方、軟口蓋の調整などによって鼻側への空気の流れが生じている場合、口だけを通して発声する場合とは異なる条件になります。
そのため、内田の経験上、ストローを使っていても、意図した発声の条件が十分に得られていない可能性を考える事があります。
ただし、鼻側への空気の流れがある事自体が、必ずしも悪いわけではありません。鼻音では鼻腔への通路を利用しますし、歌唱で適切な調整がどうなるかは、母音や発声の目的などによっても異なります。
また、軟口蓋が下がっているかどうかを、本人の感覚だけで正確に判断する事は簡単ではありません。
したがって、「軟口蓋が下がるとストロー発声の効果がなくなる」と一律に断定する事はできません。
大切なのは、ストローを使っているときに、どのような声道の条件が作られているかを確認する事です。
ストロー発声は、ストローをくわえるだけで完成する万能な練習ではありません。声の状態や目的に応じて、発声全体を調整していく必要があります。
7. ストロー発声で、そのまま歌ってもよい?
ストローを使いながら、実際の歌のフレーズを練習する方法もあります。
音の高さをゆっくり上下させる練習だけでなく、曲のメロディーに合わせて声を出す事で、歌唱に近い条件を練習できます。
ただし、歌のフレーズによって、音の動きや長さ、母音、音量などは異なります。そのため、すべての曲で同じように行えばよいわけではありません。
例えば、音が大きく跳躍するフレーズと、少しずつ音が動くフレーズでは、意識したい点が異なります。また、音を長く伸ばす箇所と、短い音が連続する箇所でも、声のつなぎ方は変わります。
ストローを使っているときにうまく声を出せても、ストローを外すと同じように発声できない場合もあります。
そのため、ストロー発声を歌のフレーズに応用する場合は、単に曲をストローでなぞるだけでなく、練習の目的を明確にする事が大切です。
内田のボイトレでは、フレーズごとのコツを大切にしています
内田の考えでは、ストロー発声で歌う事自体は、発声を練習する方法のひとつとして活用できます。
ただし、歌のフレーズによってコツが必要です。
どの音から始めるのか、どこで音が大きく動くのか、どのように声をつなぐのかなど、フレーズの特徴に応じて調整したい点が変わります。
また、ストローを使った練習で得られた感覚を、実際の歌唱へどのようにつなげるかも重要です。
内田のボイトレ体験レッスンでは、実際の声や歌のフレーズを確認しながら、ストロー発声の使い方や、ストローを外した後の発声へのつなげ方を詳しくご説明します。
8. ストロー発声には、どのような効果が科学的に確認されている?
ストロー発声を含むSOVTエクササイズについては、声のトレーニングや音声治療の分野で研究が行われています。
ただし、科学的な説明をするときには、ストロー発声の仕組みについての研究と、実際に練習した人の声がどのように変化したかを調べる研究を区別する必要があります。
声帯と声道の相互作用に関する研究
Titzeによる2006年の論文では、半閉鎖声道を利用した発声について、声帯と声道の相互作用が検討されています。
この研究は、ストローなどを利用した練習が、どのような物理的な仕組みによって発声へ影響し得るのかを考えるうえで参考になります。
一方、この研究は主に理論的な仕組みを検討したものであり、ストロー発声を行えば、すべての人のミックスボイスが改善する事を証明した研究ではありません。
ストロー発声を含む練習プログラムの研究
2019年に公表された研究では、発声に問題を抱える人を対象に、ストロー発声などのSOVTエクササイズを含むプログラムが検討されました。
ストロー発声を行ったグループでは、一部の声の評価指標に改善が見られました。ただし、対象者や練習期間、評価方法には条件があり、その結果をすべての歌い手にそのまま当てはめる事はできません。
また、2021年に公表されたSOVTエクササイズのシステマティックレビューとメタ分析では、複数の研究をまとめて評価しています。
そのレビューでは、一定の改善傾向が報告された一方、採用された研究のエビデンスの質には限界があり、SOVTエクササイズがほかの介入方法より明確に優れているとは結論づけられていません。
このように、研究はストロー発声を含む練習の可能性を示していますが、効果の程度や適した対象、ほかの練習方法との違いについては、慎重に考える必要があります。
科学的な研究と内田自身の経験則は分けて考える
ここまで紹介した研究は、ストロー発声の物理的な仕組みや、特定の対象者に対する練習効果を調べたものです。
一方、叫ぶように発声してしまう方におすすめする事や、声の打点を少なくしてレガートを意識する事は、内田自身のレッスン経験に基づく考え方です。
両者は、同じ種類の根拠ではありません。
科学的な研究は、発声の仕組みや、一定の条件で得られた結果を理解するために役立ちます。実際のレッスンでの経験は、目の前の人の声や歌い方に合わせて、どのような練習を試すかを考える手がかりになります。
その両方を区別しながら活用する事が、発声を学ぶうえで大切だと考えています。
9. ストロー発声で注意したい事
ストロー発声は比較的取り組みやすい練習ですが、やり方や体調によっては負担になる可能性もあります。
強く息を押し出さない
ストローから大きな音を出そうとして、息を強く押し出す必要はありません。
強く吹く事と、効率よく発声する事は同じではありません。強い力が必要になる場合は、音量や練習方法を見直してください。
苦しくなるまで続けない
発声中に喉の痛み、強い圧迫感、息苦しさなどを感じた場合は中止してください。
強い抵抗や苦しさがあるほど、よい練習だとは限りません。
ストローの種類による違いを理解する
ストローの太さや長さによって、発声時の抵抗は変わります。
また、空気中で行うストロー発声と、ストローを水に入れて発声する方法も、同じ練習条件ではありません。水に入れる方法では、水深などによって抵抗が変化するため、区別して考える必要があります。
声の不調を無理に解消しようとしない
声がかすれる、発声時に痛みがある、急に声が出にくくなったなどの症状がある場合、ストロー発声を繰り返せば解決するとは限りません。
症状が続く場合は、耳鼻咽喉科などの医療機関に相談してください。ボイストレーニングは発声の学習を目的とするものであり、医療的な診断や治療の代わりにはなりません。
まとめ
ストロー発声は、ストローによって声道の条件を変えながら行う発声練習です。声帯と声道の相互作用を利用する方法として、ボイストレーニングや音声治療の分野で研究されています。
内田自身のレッスン経験では、叫ぶように発声してしまう方に、ストロー発声を試してもらう事には価値があると考えています。
また、練習では声の打点を少なくし、レガートを意識して声をなめらかにつなぐ事も、ひとつのポイントです。
ただし、ストロー発声をすれば必ずミックスボイスができるわけではありません。軟口蓋や鼻側への空気の流れを含めた声道の調整、声帯の振動、実際の歌唱への応用など、複数の要素を考える必要があります。
ストロー発声を使って歌う事もできますが、歌のフレーズによってコツが異なります。ストローを使った練習で得られた感覚を、実際の歌唱でどう再現するかが大切です。
ストロー発声の使い方や、ミックスボイスを目指す練習への取り入れ方、実際の歌のフレーズへの応用を詳しく知りたい方は、内田のボイトレ体験レッスンでご相談ください。
参考文献・参考情報
Titze IR. Voice Training and Therapy With a Semi-Occluded Vocal Tract: Rationale and Scientific Underpinnings. Journal of Speech, Language, and Hearing Research. 2006;49(2):448–459.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16671856/
Meerschman I, et al. Effect of three semi-occluded vocal tract therapy programmes on the phonation of patients with dysphonia: lip trill, water-resistance therapy and straw phonation. International Journal of Language & Communication Disorders. 2019.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30408272/
Pozzali I, et al. Effectiveness of Semi-Occluded Vocal Tract Exercises (SOVTEs) in Patients with Dysphonia: A Systematic Review and Meta-Analysis. Journal of Voice.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34284924/
Singing Voice Sciencehttps://www.singingvoicescience.com/
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