なぜ高い声が出ないの?|高音が出ない原因を声帯・F0・CT・TAから科学的に解説

「高い声が出ない」
ボイストレーニングでは、とても多く相談される悩みの一つです。
「高音を出そうとすると喉が苦しくなる」「ある音から急に裏返る」「低い声は出るのに、高音だけ出ない」「小さい声なら出るけど、大きな声になると出ない」「高音になると声が細くなる」
このような悩みを持つ方は少なくありません。
では、なぜ高い声が出ないのでしょうか?
結論から言うと、
「高音が出ない=喉が弱い」「=腹式呼吸ができていない」「=声帯が弱い」など、一つの原因だけで説明することはできません。
高音を出すためには、声帯の振動、喉頭筋の協調、声門閉鎖、呼気、声道の形、そして発声をコントロールする運動学習など、複数の要素が関係します。
この記事では、音声科学・喉頭生理学の研究をもとに、
「高い声が出ないとき、身体の中で何が起きている可能性があるのか?」
をできるだけわかりやすく解説します。
まず結論|高音が出ない原因は「一つ」ではありません
高音発声を考えるとき、まず知っておきたいのが次の5つです。
高音に関係する主な要素
① 声帯を高い速度で振動させる能力② CT・TAなど喉頭筋の協調③ 声帯の長さ・厚み・剛性④ 呼気と声帯振動のバランス⑤ 声道の形・共鳴の調整
簡単に図にすると、
【高音発声】
│
┌───────────┼───────────┐
↓ ↓ ↓
声帯の調整 喉頭筋の協調 呼気
│ │ │
└───────────┼───────────┘
↓
声帯が振動する
↓
音響信号が生まれる
↓
声道で響きが変化
↓
「高い声」
つまり、
高音は「喉だけ」の問題ではありません。
そもそも「高い声」って何?
ここで、少し専門用語を説明します。
音声科学では、声の高さを考えるとき、
F0(エフゼロ)=基本周波数(Fundamental Frequency)
という言葉を使います。
F0とは?
簡単に言えば、
声帯が1秒間に何回くらい振動しているか
を表す値です。
単位は、
Hz(ヘルツ)
です。
例えば、F0が100Hzなら、
声帯の振動
1秒間
↓
100回程度
という意味になります。
F0が200Hzなら、
声帯の振動
1秒間
↓
200回程度
となります。
一般に、F0が高くなるほど、私たちは「高い声」として知覚します。
F0は声帯振動の繰り返し速度を表し、知覚されるピッチ(音の高さ)と強く関係しています。
【参考:Speech acoustics: How much science?】
「音の高さ」と「声の大きさ」は違います
ここも非常に重要です。
F0
→ 主に「音の高さ」に関係
音圧・振幅
→ 主に「音の大きさ」に関係
スペクトル
→ 声の音色・響きなどに関係
つまり、
高い声
=
F0を高くする
大きい声
=
音のエネルギーを大きくする
良い響き
=
声道などによる音響特性も関係
というように、別々に考える必要があります。
「高音を出すために、とにかく大きな声を出す」
という考え方が必ずしも正しくない理由の一つです。
高音になると、声帯では何が起きている?
では、実際に声帯を見てみましょう。
声帯は喉頭の中にあります。
簡略化すると、
喉頭
│
┌────┴────┐
│ 声帯 │
│ ←→ │
└────┬────┘
│
気道
声帯は、肺から上がってくる空気との相互作用によって振動します。
そして、その振動によって音の元となる信号が作られます。
高音では「声帯の振動速度」が上がる
例えば、
低い音
ゆっくり
│
↓
~~~~~~
高い音
速い
│
↓
~~~~~~~~~~
実際には単純な波形だけでは説明できませんが、イメージとしては、
高音ほど声帯の振動周期が短くなる
と考えると理解しやすいでしょう。
F0はこの振動周期の逆数として表すことができます。
つまり、
振動が速い → F0が高い → 高い音として知覚されやすい
という関係があります。
では、どうやって声帯の振動を速くするの?
ここで登場するのが、
CT筋
と
TA筋
です。
CT筋とは?
CTは、
Cricothyroid muscle
日本語では、
輪状甲状筋
と呼ばれます。
CT筋は、甲状軟骨と輪状軟骨の位置関係を変化させ、声帯を伸長させる方向に働きます。
声帯が伸ばされることで、声帯の張力・剛性などが変化し、F0を上昇させることができます。
簡単なイメージは、
低い音
声帯
======
↓
高い音
声帯
========
↑
より伸長
です。
CT筋は、声の高さを上げる重要な筋肉として研究されています。
【参考:How does human motor cortex regulate vocal pitch in singers?】
TA筋とは?
TAは、
Thyroarytenoid muscle
日本語では、
甲状披裂筋
と呼ばれます。
TA筋は声帯そのものの内部にある筋肉で、声帯の振動状態や声門閉鎖などに関係します。
ここで注意したいのは、
「CT=高音、TA=低音」
と単純に考えないことです。
実際のF0制御では、CTだけではなくTAなど複数の筋活動の組み合わせが関係します。
研究では、CTとTAの活動が声帯の長さ・剛性・振動状態などに影響し、F0の調節に関与することが示されています。
【参考:Influence and interactions of laryngeal adductors and cricothyroid muscles on fundamental frequency and glottal posture control】
CTとTAを「アクセルとブレーキ」のように考えない
ボイトレでは、
「CTを使う」「TAを抜く」
というような説明をすることがあります。
しかし、これはあくまで指導上のイメージです。
生理学的にはもっと複雑です。
高音発声
│
┌─────┴─────┐
↓ ↓
CT TA
│ │
声帯伸長など 声帯の状態・閉鎖など
│ │
└─────┬─────┘
↓
複数の筋活動が協調
↓
F0を調整
したがって、
「高音が出ないからCTが弱い」
と、生徒さんの状態を直接見ずに断定することはできません。
実際の筋活動を直接測定していない以上、
「CTが弱い」「TAが強すぎる」
などの診断的な表現には注意が必要です。
高音が出ない人に何が起きている?
ここからが実際のボイストレーニングで重要な部分です。
「高音が出ない」と言っても、全員が同じ状態ではありません。
① 音程そのものが上がらない
ド → レ → ミ → ファ → ソ
↑
ここから上がらない
この場合は、
声帯振動の調整
喉頭筋の協調
発声パターン
音高をコントロールする能力
個人差
などを検討する必要があります。
ただし、外から聞いただけで「CTが原因」と特定することはできません。
② ある音から急に裏返る
これは非常に多い悩みです。
低音
↓
↓
↓
↓
↓
★ ←ここで急に声質が変わる
\
\ 裏返る
このような場合には、
レジスター間の移行
を考える必要があります。
発声中には、音高の上昇に伴って声帯振動や喉頭筋活動の状態が変化します。
特にレジスター移行では、声門閉鎖に関わる筋活動なども重要になります。
【参考:Influence and interactions of laryngeal adductors and cricothyroid muscles on fundamental frequency and glottal posture control】
③ 高音は出る。でも苦しい
これも非常に重要です。
例えば、
「A4が出ました!」
という人がいたとしても、
高音
↓
声が出る
↓
首・顎・喉などに強い力み
↓
苦しい
という状態なら、
「音が出た=発声が適切」
とは限りません。
ボイトレでは、
最高音だけではなく、どのような条件でその音が出たのか
を見る必要があります。
④ 小さい声なら出る。でも大きくすると出ない
これも非常に面白いケースです。
例えば、
小さい声
「う〜」
↓
高音が出る
大きな声
「うーー!!」
↓
出なくなる
この場合、
単純に「音域が足りない」と決めつけることはできません。
声帯の振動状態だけではなく、
呼気条件
声門閉鎖
声質
声道
音量と音高の協調
などを考える必要があります。
⑤ 母音によって高音が出たり出なかったりする
これも重要です。
例えば、
「あ」では苦しい。
でも、
「う」なら出る。
この場合、
声帯だけを原因として考えるのは不十分です。
なぜなら、母音によって声道の形が変化するからです。
声帯だけではなく「声道」も重要
声帯で作られた音は、そのまま完成した歌声になるわけではありません。
音は、
肺
↓
声帯
↓
喉頭
↓
咽頭
↓
口腔
↓
唇
↓
外へ
と進みます。
声帯で作られる音の元を、
音源(source)
声道によって変化する部分を、
フィルター(filter)
として考える「Source-Filter Theory」という考え方があります。
声道の共鳴はフォルマントなどの音響特性に関係します。
【参考:Good vibrations: A review of vocal expressions of positive emotions】
つまり「高音=声帯だけ」ではない
イメージすると、
【音源】
声帯
↓
「ブザー」のような
元の音が生まれる
↓
【フィルター】
声道
↓
響き・音色などが変化
↓
【歌声】
という構造です。
そのため、
「高音が出ないから声帯だけを鍛えればいい」
とも言い切れません。
「喉を開けば高音が出る」は本当?
これも注意が必要です。
「喉を開く」
という表現はボイトレでよく使われます。
しかし、
「喉を開く」という言葉だけでは、具体的にどの組織がどう動いているのかが明確ではありません。
そのため、
「喉を開けば必ず高音が出る」
とは科学的には言えません。
「喉を開く」という指示が、ある人には有効でも、別の人には別の調整を引き起こす可能性があります。
ボイトレでは、
言葉そのものより、実際にどのような発声結果が起きたのか
を見ることが重要です。
「高音が出ない=腹式呼吸不足」なのか?
ここも非常に大切です。
結論として、
高音が出ない原因を「腹式呼吸ができていない」と一律に説明することはできません。
もちろん、呼吸は発声に必要です。
しかし、高音の基本的な音高生成には、
声帯の長さ
声帯の剛性
声帯の振動状態
CT・TAなどの喉頭筋活動
などが関係します。
つまり、
呼吸
↓
発声に必要
しかし
呼吸
=
高音の原因そのもの
ではない
ということです。
これは非常に重要な区別です。
では「腹圧」は?
腹圧・呼気圧についても、
高音=腹圧を強くすればいい
と単純化することはできません。
発声は、呼気による空気力学的条件と声帯の生体力学的条件の相互作用によって成立します。
そのため、
「高音が出ないから、もっとお腹を押す」
という方法が、全員に適切とは限りません。
むしろ、
その人がどの程度の呼気条件で、どのような声帯振動をしているのか
を見ることが重要です。
「高音が出ない」を5つに分類してみる
内田のボイトレでは、単に「最高音は何ですか?」だけではなく、次のように評価すると分かりやすいと思います。
タイプ | 起きていること | 考えるポイント |
① 音程が上がらない | F0を十分に上げられない | 声帯・喉頭筋・運動制御など |
② 裏返る | ある音で発声状態が急変 | レジスター移行など |
③ 苦しい | 音は出るが負担が大きい | 発声協調・声門閉鎖など |
④ 大きくすると出ない | 小音量では出る | 音量と音高の協調 |
⑤ 母音で変わる | 「あ」は難しいが「う」は可能など | 声道・共鳴など |
重要なのは、
「高音が出ない」という結果ではなく、「どの条件で出ないのか」を見ることです。
高音を評価するときに見る5項目
僕が内田のボイトレで高音を考えるなら、次の5項目に分けて観察します。
① 音高
どこまでF0を上げられるか?
② 音量
小さい声なら出る?
普通の声なら?
大きい声なら?
③ 声質
息っぽい
硬い
押している
裏返る
細い
クリア
など。
④ 母音
「あ・え・い・お・う」
で違いがあるか?
⑤ 上昇の仕方
単音なら出る?
スケールなら?
グリッサンドなら?
歌詞をつけると?
「最高音」だけを競わない
ここは内田のボイトレとして、かなり大切にしたいところです。
例えば、
一瞬だけ出せるC5
と、
無理なく安定して使えるA4
では、歌唱上の意味が違います。
そのため、
「最高音が何Hzか?」
だけを見るのではなく、
どの音域を、どの音量で、どの声質で、どの程度安定して使えるのか
を見ることが重要です。
F0を知ると、ボイトレの見方が変わる
例えば、
「高音が出ない」
という悩みを、
単なる感覚ではなく、
音高
↓
F0
声帯
↓
振動状態
喉頭筋
↓
CT・TAなど
呼気
↓
空気力学的条件
声道
↓
共鳴・音色
運動制御
↓
再現性
という複数の要素に分解できます。
これが、僕が考える「高音を科学的に見る」ということです。
ただし、科学的だからといって「筋肉を直接特定できる」わけではありません
ここは誤解してほしくないところです。
例えば生徒さんの声を聞いて、
「あなたはCTが弱いです」
「TAが強すぎます」
と断定することはできません。
実際の筋活動を測定していないからです。
したがって、
「CTが弱い可能性がある」
と、
「CTが弱い」
は全く違います。
内田のボイトレでは、この違いを大切にしたいと思っています。
まとめ|高音が出ない本当の原因を探す
高音が出ないとき、
「喉が弱い」
「腹式呼吸ができていない」
「声帯が弱い」
と、すぐに原因を一つに決める必要はありません。
高音発声には、
声帯の長さ・厚み・剛性
CT・TAなど喉頭筋の協調
声門閉鎖
呼気と声帯振動のバランス
声道の調整
発声をコントロールする運動学習
など、複数の要素が関係しています。
そして、
「高音が出ない」という結果ではなく、「なぜ、その条件で出ないのか?」を調べること
が重要です。
内田のボイトレでは「最高音」だけで判断しません
高音について悩んでいる方には、
「何の音まで出ますか?」
だけではなく、
どの音から苦しくなるのか。
裏返るのはどこなのか。
小さい声なら出るのか。
大きくすると出なくなるのか。
母音によって変わるのか。
歌詞をつけると変わるのか。
などを確認していきます。
高音は、
「力で押し上げるもの」
ではなく、
声帯・喉頭・呼吸・声道などの協調によって作られるもの
と考えると、見えてくるものが変わってきます。
「高音を出したい」と悩んでいる方は、まず、
「自分は何が原因で高音が出ないのか?」
を知るところから始めてみてください。
参考文献・参照元
Speech acoustics: How much science?F0(基本周波数)の定義、声帯振動との関係について。https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3361773/
How does human motor cortex regulate vocal pitch in singers?CT・TAと声の高さ、声帯の長さ・剛性などについて。https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6124115/
Influence and interactions of laryngeal adductors and cricothyroid muscles on fundamental frequency and glottal posture controlCT・TAなど喉頭筋とF0・声門姿勢について。https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4188037/
Mechanics of human voice production and control声帯閉鎖など、喉頭筋による発声機構について。https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5412481/
Good vibrations: A review of vocal expressions of positive emotionsF0、フォルマント、声道による音響的変化について。https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7093353/
SEO用キーワード候補
メインキーワード
「高い声が出ない」
関連キーワード候補
「高音が出ない」「高音が出ない原因」「高い声を出す方法」「高音 発声」「高音 ボイトレ」「高音 コツ」「歌 高音 出ない」「高音 裏返る」「高音 喉が苦しい」「高音 ミックスボイス」「カラオケ 高音 出ない」「F0 声 高さ」「CT筋 高音」「TA筋 高音」
※上記はSEO上の「候補」です。検索ボリュームや競合性については、今回ラッコキーワードの管理画面データを直接取得していないため、数値は未確認です。
SEOタイトル案
なぜ高い声が出ない?高音が出ない原因を声帯・F0・CT・TAから科学的に解説|内田のボイトレ
メタディスクリプション案
高い声が出ない、高音が苦しい、声が裏返る原因とは?F0(基本周波数)、声帯、CT筋・TA筋、呼吸、声道の関係から、高音発声の仕組みを科学的に解説。内田のボイトレが「高音が出ない」を5つのタイプに分けて考えます。



